インドネシア フィットネス投資×AI時代の可能性:成長市場の実態と未来戦略
1. 生成AI時代、なぜインドネシアのフィットネス事業は“有効”なのか
生成AIの進化は、ここ数年で企業経営の前提を大きく塗り替えました。文章作成、データ分析、顧客対応、営業支援、さらには業務設計や意思決定補助まで、従来は人間が担っていたホワイトカラー業務の多くが、AIによって自動化・高度化されつつあります。この流れは今後さらに加速し、「効率化できる業務」と「人が担うべき業務」の線引きは、より明確になっていくでしょう。
その中で、AIによって“完全に代替できない産業”が浮かび上がっています。フィットネスは、その代表的な存在です。フィットネス事業の本質は、設備やプログラムそのものではなく、人と人、人と身体の関係性の中にあります。利用者がどのような目的を持ち、どのような不安や葛藤を抱え、どのような生活リズムの中で運動を続けていくのか。その一つひとつに寄り添い、信頼関係を築きながら継続を支えることが、フィットネスの価値の中核です。
AIは、トレーニング計画の作成、運動データの解析、顧客情報の管理といった領域では非常に有効です。実際、これらをAIに任せることで、トレーナーやスタッフはより付加価値の高い業務に集中できるようになります。しかし、AIは「人の感情の揺れ」や「身体の微妙な変化」、「言葉にしにくい違和感」を完全に理解することはできません。利用者が成果を実感できずにモチベーションを落としている瞬間や、生活環境の変化によって通うことが難しくなったときに、どう関わるかは、人間の経験と共感に基づく判断が不可欠です。
フィットネス事業は、短期的な成果ではなく、数か月、数年にわたる継続の中で価値が積み重なっていくビジネスです。だからこそ、信頼関係が構築されやすく、一度根付いた顧客基盤は安定した収益源になります。生成AI時代において、多くの事業が効率化と引き換えに価格競争へと巻き込まれる中、フィットネスは「人が関わる価値」を前提とすることで、構造的にコモディティ化しにくい産業と言えます。
このような特徴を踏まえると、人口構造と成長余地を併せ持つインドネシア市場において、フィットネス事業が有効である理由は極めて明確です。AIを活用しつつも、人の役割が価値の中心に残り続ける産業であること。それが、生成AI時代においてもフィットネス事業の価値が揺らがない最大の理由です。
2. インドネシアは“健康大国”へ向かう成長市場
インドネシアは、これまで「人口ボーナス」「内需主導型成長」という文脈で語られることが多い国でした。しかし近年、その成長フェーズは新たな段階に入りつつあります。経済成長と都市化の進展により、国民の生活様式が大きく変化し、健康やウェルネスに対する意識が急速に高まり始めているのです。
インドネシアでは、可処分所得の増加とともに、食生活の変化、デスクワークの増加、移動手段の自動車依存などが進んでいます。その結果、成人の約23.4%が肥満と推定されるなど、生活習慣病リスクが顕在化し始めています。これは、かつて日本や韓国、中国が経済成長の過程で経験してきた道と重なります。すなわち、インドネシアは今、「成長の次に訪れる健康課題フェーズ」に差しかかっていると言えるでしょう。
この段階において重要になるのが、「治療」よりも「予防」です。医療で対応する段階に入ってからでは、社会的コストは急激に膨らみます。医療費の増大、労働生産性の低下、企業の人材維持コストの増加など、健康問題は経済全体に波及します。そのため、個人レベルでも企業レベルでも、病気になる前に健康を維持するための投資が合理的な選択肢として認識され始めています。
こうした背景のもと、インドネシアの健康・ウェルネス市場全体は、2025年に約512億ドル(約7.3兆円)規模に達すると推定されており、2034年には約728億ドルまで成長すると予測されています。この数字は、単なる流行ではなく、構造的な需要拡大が進んでいることを示しています。フィットネスは、このウェルネス市場の中核を担う存在であり、予防・健康管理のインフラとしての役割を強めていくと考えられます。
特に若年層・中間層においては、「体を動かす場所」としてのジムではなく、「自己管理」「自己投資」「コミュニティ形成」の場としてフィットネスを捉える傾向が強まりつつあります。この価値観の変化は、フィットネス事業が単なる娯楽や贅沢ではなく、生活の一部として定着していく可能性を示唆しています。
3. インドネシアのフィットネス市場の現在地:数字で見る成長
インドネシアのフィットネス市場は、アジア太平洋地域全体の中ではまだ小規模な部類に入ります。しかし、その小ささこそが、大きな成長余地を意味しています。2024年時点で、同国のジム・フィットネスクラブ市場は約6億ドル(約840億円)規模に達しており、前年から6.1%の成長を記録しています。
この市場規模は、アジア太平洋市場全体の約1.3%に過ぎませんが、人口規模を考えれば極めて低い浸透率であることが分かります。実際、インドネシアにおけるフィットネスクラブの利用率は1%未満と推計されており、これは日本や韓国、シンガポールなどと比較しても大きく下回る水準です。裏を返せば、文化として定着し始めた段階に過ぎず、今後の伸びしろは非常に大きいと言えます。
統計によれば、ジム会員数は2022年時点で約260万人とされていますが、今後数年で350万人以上に増加する可能性が示されています。この増加を牽引しているのが、都市部に住む若年層、ミレニアル世代、Z世代です。彼らは、従来の「モノ消費」よりも、「体験」や「自己成長」に価値を見出す傾向が強く、健康やウェルネスへの支出を前向きに捉えています。
また、外資系フランチャイズやローカルブランドの参入が進むことで、フィットネスの選択肢が広がり、価格帯や提供価値の多様化も進んでいます。これにより、富裕層向けの高級ジムだけでなく、中間層向けの少人数制スタジオや専門特化型フィットネスなど、さまざまなビジネスモデルが成立しやすい環境が整いつつあります。
インドネシアのフィットネス市場は、まだ「完成された市場」ではありません。だからこそ、事業設計や運営次第で大きな差が生まれます。生成AIを活用してオペレーションを効率化しつつ、人の関与によって顧客体験を高める。このバランスを取れる事業者にとって、インドネシアのフィットネス市場は、生成AI時代における極めて有望な成長機会と言えるでしょう。
4. AIで消える仕事と、消えない産業の違い
生成AIの進化によって、多くの仕事が再定義されつつあります。
事務作業、データ整理、定型的な分析、ルーティン化された意思決定──これらはすでにAIによる代替・補完が進み、人間が担う必要性は急速に低下しています。企業にとっては生産性向上というメリットがある一方、個人や産業レベルでは「どの仕事が残るのか」という問いが、避けて通れないテーマになっています。
この文脈で重要なのは、「AIができること」と「AIが本質的にできないこと」を切り分ける視点です。
AIは情報処理・最適化・予測には圧倒的に強い一方で、身体性・感情・関係性といった領域には決定的な限界があります。
フィットネスの本質は、単なる運動指導ではありません。
・身体に直接関わりながら変化を伴走すること
・メンタル面の揺らぎを感じ取り、支えること
・言葉にならない不安や挫折感に寄り添うこと
こうしたプロセスの積み重ねによって、初めて成果が生まれます。
例えば、同じトレーニングメニューでも、
「今日は無理をさせない方がいい」
「ここは少し背中を押した方がいい」
といった判断は、数値やログだけでは導き出せません。表情、呼吸、声のトーン、その日の生活背景──そうした文脈情報を総合して判断する必要があります。
さらに、フィットネスにおいて成果を左右するのは「やり方」以上に「続くかどうか」です。
人は合理的に正しいと分かっていても、簡単に行動をやめてしまいます。だからこそ、
・自分を見てくれている人がいる
・期待されているという感覚がある
・小さな変化を一緒に喜ってくれる存在がいる
こうした情緒的な要素が、継続の原動力になります。
これらはAIには創れません。
AIはサポートツールにはなれても、「信頼される伴走者」にはなれないのです。
フィットネスは、「結果体験」と「信頼関係」で成り立つ事業です。
結果とは、体重や筋肉量といった数値だけではなく、
・疲れにくくなった
・気分が前向きになった
・生活リズムが整った
といった主観的な変化も含みます。これらを共有し、意味づけし、次の行動につなげるプロセスそのものが価値になります。
だからこそ、AI時代においても、フィットネスは「消えない産業」であり続けるのです。
5. AI時代に強い事業の条件──インドネシアでフィットネスが選ばれる理由
AI時代に強い事業には、いくつかの明確な共通点があります。
✔ 標準化できない価値がある
✔ 人と人の関係性に基づく継続性がある
✔ 顧客の成果や習慣形成が重要である
フィットネスは、このすべてを満たす典型例です。
トレーニングプログラムは一見すると標準化できそうに見えますが、実際には個人差が極めて大きい分野です。年齢、性別、体力、既往歴、生活習慣、仕事の内容──これらが少し違うだけで、最適な負荷やアプローチは変わります。完全なマニュアル化は不可能であり、常に人の判断が介在します。
また、フィットネスの価値は「一度の購入」では完結しません。
会員制・継続利用を前提とするビジネスモデルであり、顧客の成果が積み上がるほどLTV(顧客生涯価値)が高まります。これは、短期的な価格競争に陥りにくい構造を意味します。
ここで、インドネシア市場の特性が重なります。
インドネシアでは、
・ジム利用率が 人口の1%未満 と依然として低い
・若年人口(ミレニアル+Z世代)が累計で 約1億3,850万人 と巨大
・都市部を中心に、スポーツ・フィットネス関連消費が拡大傾向
という特徴があります。
つまり、市場はまだ「使い切られていない」状態です。
欧米や日本のように成熟しきった市場では、既存プレイヤー同士の奪い合いになりがちですが、インドネシアでは「これから始める人」が圧倒的に多い。これは、フィットネス事業にとって非常に大きなアドバンテージです。
さらに、若年層が多いということは、「習慣がこれから形成される」という意味でもあります。
最初にどのようなフィットネス体験を提供できるかによって、その後何年にもわたる行動パターンが決まる可能性があります。質の高い体験を提供できる事業者ほど、長期的な支持を獲得しやすくなります。
AIが進化するほど、「人が関わる意味のある体験」への需要はむしろ高まります。
インドネシアでフィットネスが選ばれる理由は、市場規模の大きさだけでなく、こうした構造的な強さにあるのです。
6. 少人数・専門型が選ばれるフィットネスの構造
インドネシアでは、すでに多くの大型フィットネスクラブが全国展開を進めています。
これらの存在は市場拡大に貢献する一方で、差別化が難しく、価格競争に陥りやすいという課題も抱えています。
その中で、今後競争優位となるのが 少人数制・専門型のフィットネスサービス です。
都市部の富裕層・中間層は、単に
「設備が新しい」
「店舗数が多い」
といった要素では満足しません。彼らが重視するのは、
・自分の目的に合った指導が受けられるか
・成果を実感できるか
・時間効率が良いか
という点です。
少人数制であれば、トレーナーは一人ひとりの状態を把握でき、微調整を重ねながら指導できます。結果として、短時間でも成果が出やすく、満足度が高まります。これは、忙しい都市生活者にとって非常に重要な価値です。
実際に、インドネシアでは差別化された専門型ブランドが台頭しています。
EMSトレーニングに特化した 20FIT は、短時間・高効率という明確な価値提案で支持を集めています。
また、低価格ながら都市部で存在感を示す ReFIT Indonesia のようなブランドは、これまでフィットネスにアクセスできなかった層を市場に引き込む役割を果たしています。
これらに共通するのは、「何でもできる」ではなく、「これが強い」という明確な専門性です。
少人数・専門型は、大規模化しなくても成立し、むしろ大きくなりすぎないこと自体が強みになります。コミュニティの密度、関係性の濃さ、成果の実感──これらは規模を拡大するほど薄れていくからです。
AIを活用して予約管理や進捗管理を効率化しつつ、価値の中核は人が担う。
このハイブリッド型の構造こそが、インドネシアにおけるフィットネス事業の理想形だと言えるでしょう。
少人数・専門型フィットネスは、
AI時代に消えないどころか、
AI時代だからこそ価値が際立つ産業
として、インドネシアで確かなポジションを築きつつあります。
7. インドネシアは“次の健康課題大国”になる
インドネシアは現在、急速な経済成長と都市化の進展という恩恵を享受する一方で、その裏側で新たな社会課題を抱え始めています。その代表例が、糖尿病や高血圧といった生活習慣病の増加です。これらはかつて先進国特有の問題と捉えられてきましたが、今やインドネシアにおいても無視できない規模で拡大しています。
都市部への人口集中により、通勤時間の長時間化、デスクワーク中心の就業形態、外食や加工食品への依存度の上昇など、生活スタイルは大きく変化しました。結果として、運動不足や栄養バランスの偏りが慢性化し、若年層から中高年層まで幅広い世代で健康リスクが顕在化し始めています。これは単なる個人の問題にとどまらず、労働生産性の低下、医療費の増加、社会保障負担の拡大といった、国家全体に影響を及ぼす構造的な課題へとつながっています。
こうした背景の中で、インドネシアでは「治療」から「予防」へと健康観がシフトしつつあります。病気になってから医療機関にかかるのではなく、日常的な運動習慣や生活改善によってリスクを下げるという考え方が、徐々に社会に浸透し始めているのです。この流れの中で、フィットネスは単なる趣味や余暇活動ではなく、「健康投資」としての位置づけを強めています。
健康投資という概念は、個人にとっては将来の医療費削減や生活の質向上につながり、企業にとっては従業員のパフォーマンス向上や離職率低下といった効果をもたらします。さらに国家レベルでは、医療インフラへの過度な負担を抑え、持続可能な成長を支える重要な要素となります。フィットネス産業は、こうした多層的な価値を同時に生み出せる、極めて稀有な産業なのです。
実際、スポーツ関連消費全体は2024年に約395億ルピア(約31億シンガポールドル、約2500億円)規模に達しており、これはインドネシア国内において健康・スポーツ分野がすでに巨大な市場であることを示しています。フィットネスはこの成長領域の中核を担う存在であり、今後は単発的なブームではなく、生活インフラとして社会に組み込まれていく可能性が高いといえるでしょう。
重要なのは、インドネシアが「健康課題大国」になるという見方が、単なる悲観的な予測ではないという点です。むしろ、課題が顕在化し始めたこの段階こそが、予防型産業が社会に定着するためのスタートラインであり、フィットネス事業が本質的な価値を発揮するフェーズに入ったと捉えるべきなのです。
8. 経済成長の次に来る波を読む──インドネシア×フィットネスの未来予測
インドネシア経済は、人口ボーナス期に支えられた成長を続けてきましたが、今後は「量の成長」から「質の成長」へと軸足が移っていくと考えられています。その中で注目されるのが、健康・ウェルネス分野を中心としたサービス消費の拡大です。
国際的な予測によれば、東南アジア全体の健康・フィットネスクラブ市場は、今後10年間で年平均約9%以上の成長が見込まれています。その中でもインドネシアは、人口規模、若年層比率、都市化スピードの観点から、最も高い成長率を示す市場になる可能性が指摘されています。これは単なる経済成長の延長線上ではなく、社会構造そのものの変化を反映した動きです。
インドネシアでは、健康意識の浸透とともに「生活を改善したい」「長く働ける身体を維持したい」という価値観が広がっています。フィットネスはその欲求に直接応える存在であり、短期的な娯楽ではなく、長期的なライフスタイルの一部として受け入れられ始めています。この点は、AI時代における「代替不可能な価値」を考える上でも非常に重要です。
さらに、インドネシアはデジタルインフラの整備が急速に進んでいる国でもあります。スマートフォンの普及率は高く、若年層を中心にアプリやデジタルサービスへの抵抗感がほとんどありません。ウェアラブルデバイスやフィットネスアプリと連動したプログラム、オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッド型のトレーニングなど、AIを活用した新しいフィットネス体験を展開する余地は非常に大きい市場構造といえます。
このような環境では、AIはフィットネス事業の「代替者」ではなく「増幅装置」として機能します。データ分析や運営効率化、顧客体験の最適化といった領域はAIが担い、その上で人が身体・感情・関係性に向き合う。こうした役割分担が明確な事業モデルは、今後の市場競争において大きな優位性を持つでしょう。
インドネシア×フィットネスの未来は、単なる市場拡大にとどまりません。健康課題への対応、デジタル技術の活用、地域コミュニティとの結びつきといった要素が重なり合うことで、社会的にも経済的にも持続可能な成長モデルを描く可能性を秘めています。これこそが、経済成長の「次」に来る波の正体です。
まとめ:AI時代に残る価値 ― “人×身体×信頼” のフィットネス産業
生成AIが高度化し、多くの業務が自動化されていく未来においても、フィットネス事業の価値は揺らぐことがありません。それは、フィットネスが「目に見える成果」「人との関係性」「継続的な体験」という、人間の本質的な欲求に深く根ざしているからです。
身体を動かし、変化を実感し、他者との関係の中でモチベーションを保つ。このプロセスは、どれだけAIが進化しても完全に置き換えることはできません。むしろAIは、その体験を支える裏側の仕組みとして活用されることで、フィットネスの価値をより強固なものにしていきます。
インドネシアのように人口規模が大きく、若年層による消費が今後も伸びていく市場では、フィットネスは健康投資としてだけでなく、社会的課題解決の一翼を担う産業としての役割を果たします。生活習慣病の予防、メンタルヘルスの改善、コミュニティ形成といった効果は、長期的に見れば国全体の持続可能性を高める要素となるでしょう。
AIによる運営効率化やデータ活用は積極的に取り入れつつも、本質的な価値は「人が人に提供するフィットネス体験」にあります。この視点を持てるかどうかが、これからの投資戦略や事業展開において最も重要な分岐点となります。
フィットネス産業は、AI時代においてもなお、「人×身体×信頼」という普遍的な価値を体現し続ける数少ない産業です。そしてインドネシアは、その価値が最も大きく花開く市場の一つなのです。

