インドネシア労働法制の基礎知識|労働管理のポイントと現地の労務慣行・政策動向を解説

労務管理で押さえておきたいインドネシアの労働法制とビジネス実務の要点

インドネシアは東南アジアでも特に豊富な労働力を有し、製造業を中心に多くの日系企業が進出している国です。しかし、労働法制は「労働者保護」を重視する性格が強く、企業が現地で雇用や人事管理を行う際には、日本とは異なるルールや文化的背景を理解する必要があります。宗教や言語、地域による価値観の違いがビジネス慣行にも影響しており、法令遵守だけでなく、文化的配慮を踏まえたマネジメントが求められます。ここでは、インドネシアの労働法の基本構造、労働慣行の特徴、宗教的要素や言語の扱い方などを包括的に解説します。


法制度の枠組みと労働法の位置づけ

インドネシアの労働法制は、2003年に制定された「労働法(Law No.13/2003)」を中心として構築されています。この法律は、雇用契約、労働条件、賃金、解雇、社会保障など労働関係全般を網羅する包括的な法規です。さらに、2020年に施行された「オムニバス法(Job Creation Law)」によって、一部の規定が改正され、雇用の柔軟性と投資環境の改善を目的とした制度改編が進められています。

この改正により、従来よりも契約社員や派遣労働者の運用がしやすくなった一方で、最低賃金や退職金などの労働者保護規定は引き続き厳格に運用されています。労働関連の規定は中央政府だけでなく地方自治体にも権限が分散しているため、ジャカルタ・西ジャワ・東ジャワなど地域によって賃金水準や労働慣行が異なる点にも注意が必要です。

企業が雇用契約を締結する際には、労働法に加え、社会保障法、労働安全衛生法、宗教休暇に関する大統領令など、複数の関連法令を確認することが求められます。違反した場合には行政罰や訴訟リスクが生じることもあり、コンプライアンス体制の整備が重要な課題となっています。


労働市場の特徴と労働者保護を重視する法制度

インドネシアは約2億7,000万人の人口を抱える労働大国であり、若年層の割合が高く、製造業・サービス業を中心に雇用供給力が非常に高い国です。しかし、法制度上は労働者側の権利が手厚く保護されており、企業にとっては雇用・解雇・労使交渉の各段階で慎重な対応が求められます。

労働法では、**「労働者の生活の安定」「雇用の継続」**を最優先に考える理念が根付いており、特に解雇の手続きは日本よりもはるかに厳格です。解雇を行う場合は、事前に労働者本人への通知、労働組合との協議、そして最終的には労働裁判所の承認が必要となるケースもあります。退職金(セベランスペイ)も法定の算定基準が定められており、勤続年数や理由によって支払い額が変動します。

また、労働時間・休日・残業に関する規制も厳しく、週40時間を超える労働には時間外手当が義務付けられています。最低賃金(UMR)は毎年地方政府によって改定され、地域ごとに異なる水準が適用されます。特にジャカルタ首都圏では全国平均より高く設定される傾向があり、製造業やサービス業での人件費に大きく影響します。

さらに、女性労働者の権利保護も明確に規定されており、出産休暇・生理休暇・授乳時間の確保などが法的に保障されています。このように、インドネシアの労働法制は総じて「労働者有利」の構造となっており、企業は現地の慣行に即した人事管理を行う必要があります。


宗教と労働の関係|信仰に配慮した労務管理の重要性

インドネシアの社会構造を理解する上で欠かせないのが「宗教」です。国民の約9割がイスラム教徒であり、労働環境や日常業務にも宗教的要素が強く反映されています。たとえば、金曜日の礼拝時間(通常12時頃)は業務を中断することが一般的であり、この時間帯のミーティングや商談設定は避けるべきとされています。

また、ラマダン(断食月)の期間中は勤務時間や食事環境への配慮が求められます。飲食を控える従業員への理解や、日没後の活動時間を考慮した勤務スケジュールの調整など、企業側の柔軟な対応が信頼関係の構築に繋がります。宗教行事や祝祭日(イド・フィトリ、イド・アドハなど)は国の公休日として定められており、この期間は帰省ラッシュが発生するため、労務計画を早めに立てることが重要です。

さらに、イスラム教以外にも、ヒンドゥー教(バリ島など)、キリスト教、仏教、儒教が共存しているため、多宗教社会としての多様性を尊重するマネジメントも求められます。特に宗教的な服装、礼拝スペースの確保、食事制限(ハラール対応)などは、現地スタッフのモチベーションや定着率にも影響を与える要素です。企業が宗教的背景を理解し、文化的感性を持って職場づくりを行うことが、インドネシアでの人材活用を成功させる鍵となります。


公用語としてのインドネシア語とコミュニケーションの注意点

インドネシアの公用語は「バハサ・インドネシア語(Bahasa Indonesia)」であり、ビジネスの場ではこの言語を使用することが基本です。法律上も、労働契約書・就業規則・通知文書などは原則としてインドネシア語で作成することが義務付けられています。外国語版を併記することは可能ですが、法的な効力としてはインドネシア語版が優先されるため、文面の翻訳精度には特に注意が必要です。

現地スタッフとのコミュニケーションでは、敬意と親近感のバランスを意識することが大切です。インドネシア語は柔らかい表現を好み、直接的な指摘や強い言葉を避ける傾向があります。マネージャーや上司が丁寧で温かみのある言葉遣いを心がけることで、チームの信頼関係が築かれやすくなります。また、地方ごとにジャワ語やスンダ語などの方言も存在しますが、業務上はバハサ・インドネシア語で十分対応可能です。

最近では英語教育の普及により、都市部の若年層では英語を話す人材も増えていますが、契約や法的文書においては必ずインドネシア語での確認が求められます。企業側は現地通訳者やリーガル担当を配置し、誤解や契約トラブルを防ぐ体制を整えることが望ましいでしょう。

インドネシアの労働法制の基本と実務上のポイント

急速に経済発展を遂げているインドネシアでは、外資系企業や日系企業の進出が進む一方で、労働法制の理解不足によるトラブルも少なくありません。労働者保護を重視する国として知られるインドネシアでは、雇用契約の形式や労働時間、賃金体系、解雇手続きなどが細かく法令で定められています。ここでは、企業が現地で人材を雇用する際に理解しておくべき基本的な労働法の枠組みと実務上の留意点をわかりやすく解説します。


基本的労働法制

インドネシアの労働関係を規律する中心的な法令は「労働法(Law No. 13/2003)」であり、その後の法改正や政令によって補完されています。この法律は、労働者の権利保護と雇用安定の両立を目的としており、最低賃金、労働時間、解雇条件、社会保障など、雇用に関する基本的事項を包括的に定めています。また、労働行政の主管は「労働力省(Ministry of Manpower)」であり、労働監督官が企業の遵守状況を定期的に監査しています。

インドネシアの労働市場は多様であり、正式雇用と非正規雇用の二層構造が存在します。製造業を中心に契約社員やアウトソーシングの活用が進んでいますが、いずれの形態であっても、労働法に基づく最低限の権利保障が求められます。そのため、外資系企業は雇用の柔軟性だけでなく、法的コンプライアンスにも十分な配慮が必要です。


労働法の全体像

労働法第13号(2003年法)は、インドネシアにおける雇用関係の基礎を規定しています。この法律は労働者の権利保護を柱とし、企業と従業員の関係を法的に均衡させることを目的としています。特に「雇用契約の形式」「就労時間」「賃金」「休暇」「社会保険」「解雇手続き」など、あらゆる労務管理に関する規定が細かく明示されています。また、2020年に施行された「雇用創出法(Omnibus Law)」によって、企業活動を活性化させるための一部緩和措置が導入され、より柔軟な雇用形態が認められるようになりました。


近年の労働法改正

インドネシアでは、2020年の「雇用創出法(Omnibus Law)」の成立以降、労働関連法規の大幅な改正が進められています。この改正は、外国投資促進と雇用創出を目的としており、企業にとってはより柔軟な雇用契約制度を導入できるようになった一方で、労働者保護のバランスをどう維持するかが課題となっています。特に、有期雇用契約の更新条件、退職金制度、解雇補償などに関する規定が見直され、雇用主と労働者双方に新たなルールが適用されました。


対象者

インドネシアの労働法の適用対象は、原則として国内のすべての労働者に及びます。国籍に関係なく、現地雇用契約を締結する外国人労働者も基本的にこの法律の保護下に置かれます。ただし、外国人の就労にあたっては「労働許可(RPTKA)」および「就労ビザ(IMTA)」の取得が義務付けられており、企業は採用前にその手続きを完了しておく必要があります。


雇用契約

雇用契約は、雇用関係を明確にする最も重要な法的文書であり、書面で締結することが原則です。契約書には、職務内容、勤務地、賃金、勤務時間、休暇、契約期間などが明記されなければなりません。


主な保障の内容

労働法では、すべての労働者に対して最低賃金の保証、社会保険の加入義務、安全衛生環境の確保など、基本的な権利が保障されています。特に、地方政府ごとに定められる「地域最低賃金(UMR)」は企業にとって遵守義務があり、違反した場合には罰則が科されます。


①期間の定めのない雇用契約

いわゆる正社員にあたる「期間の定めのない雇用契約(Permanent Contract)」は、原則として解雇や契約終了に関して厳格な手続きが求められます。労働者の保護を重視するインドネシアでは、解雇には正当な理由と当局への届出が必要であり、違法な解雇は補償金支払いの対象となります。


②有期雇用契約

「有期雇用契約(Fixed Term Contract)」は、特定の期間または業務の完了を条件として締結される契約形態です。改正後の労働法では、有期契約の最長期間が延長され、更新に関するルールが明確化されました。これにより、企業は短期的なプロジェクトや試験的な雇用において柔軟な人材運用が可能となっています。ただし、更新回数や契約終了後の再雇用に関しては、労働省のガイドラインを遵守する必要があります。


試用期間

試用期間は、原則として最大3カ月までと定められています。期間中も最低賃金の支払い義務はあり、雇用条件の不当な変更や一方的な解雇は認められません。試用期間終了後、継続雇用となる場合は自動的に本契約へ移行するため、企業側は評価・判断を慎重に行うことが求められます。


労働時間

インドネシアの法定労働時間は、1日8時間・週40時間が原則です。これを超える勤務は残業とみなされ、25%から100%の割増賃金が発生します。シフト制や夜勤を導入する場合には、労働者の同意と適切な労働協約の締結が必要です。また、女性や未成年労働者に関しては夜間労働の制限も設けられており、安全確保のための配慮が求められています。


労働協約

労働協約(Collective Labor Agreement)は、企業と労働組合の間で交わされる協定であり、賃金体系や就業規則、福利厚生などを包括的に定めるものです。インドネシアでは労働組合の権限が比較的強く、一定規模以上の企業では協約締結が義務づけられています。協約は2年または3年ごとに更新されるのが一般的で、労使間の信頼関係を維持するためにも定期的な協議が欠かせません。


アウトソーシング

インドネシアでは近年、アウトソーシング(外部委託)が一般的な雇用形態として広がっています。特に製造業や物流業では、清掃・警備・生産補助などの分野で外部労働者の活用が進んでいます。2020年の法改正により、アウトソーシング企業に対しても労働法の遵守が義務づけられ、委託先の労働者にも一定の労働条件が保障されるようになりました。発注企業は、委託先の契約管理や労働安全基準への適合を確認する責任があり、形式的な外部化で法的リスクを回避することはできません。

その他の法律と労働環境に関する制度

インドネシアの労働環境を理解する上では、労働法そのものだけでなく、それを補完する周辺法規や社会保障制度、外国人労働者に関する規定を把握しておくことが重要である。これらの法律は、労働者の権利保護と企業の雇用安定の両立を目的としており、インドネシアで事業を行う外国企業や現地法人にとっても実務上の影響が大きい。特に、労働組合法や社会保障関連法は、労働環境の透明性を確保し、健全な労使関係を築くための基盤として機能している。

労働組合法等

インドネシアでは、労働者が団結して組合を結成し、労働条件の改善や賃金交渉を行う権利が憲法によって保障されている。労働組合法はこの権利を具体的に定めたものであり、労働者10人以上が集まれば自由に労働組合を設立することができる。労働組合は、企業との労働協約締結や争議行為の調整を担い、労働争議の際には政府の調停機関を通じて解決を図ることが一般的である。企業側は組合活動への妨害や差別的取り扱いを禁止されており、適正な労使関係を維持するためのコンプライアンス遵守が求められる。

社会保障

社会保障制度は「BPJS(社会保障運営機関)」によって管理されており、健康保険と労働保険の2種類に大別される。健康保険はすべての労働者が加入義務を負い、医療費や出産費の補助を受けることができる。また、労働保険には労災補償、老齢年金、死亡補償、失業手当などが含まれ、企業は従業員ごとに保険料を負担する義務がある。社会保障制度は近年、整備が進み透明化されており、外国企業にとっても従業員管理やコスト計算の観点から無視できない要素となっている。

労働者の安全保障、社会福祉関係等

インドネシア政府は労働災害防止や安全衛生の確保にも力を入れており、企業には安全管理体制の整備と教育実施が義務づけられている。特に製造業や建設業では、定期的な安全教育の実施と作業環境の改善が法律で求められる。また、労働災害が発生した場合、企業には迅速な報告と補償の責任が課される。さらに、社会福祉関連法により、女性や障がい者の雇用促進、高齢者の生活支援といった社会的包摂を目的とする施策も整えられている。これらは単なる義務ではなく、企業の社会的信頼性や持続的経営を支える重要な要素となっている。

外国人労働者

外国人の雇用については、インドネシア政府が発行する「労働許可(RPTKA)」および「就労ビザ(KITAS)」の取得が必須である。外国人を採用する際には、まず企業が外国人雇用計画を労働省に提出し、許可を得なければならない。また、現地人材との協働や技術移転を促すため、外国人の雇用期間やポジションには一定の制限が設けられている。違反した場合は罰金や事業停止などの厳しい処分が科されるため、法令遵守が極めて重要である。


就業規則の作成義務とその内容

インドネシアで10人以上の労働者を雇用する企業には、「就業規則(Peraturan Perusahaan)」を作成・届け出る義務が課せられている。就業規則は、労働条件、賃金体系、勤務時間、懲戒処分など、労使関係の基本を明文化するものであり、企業運営の透明性を確保するための重要な法的文書である。

就業規則の作成義務

企業が就業規則を作成する際には、労働者代表との協議を経たうえで、労働・移住省または地方労働局に届け出なければならない。この規則が承認されることで初めて法的効力を持つ。就業規則が存在しない場合、労働紛争や解雇問題が発生した際に企業側が不利となるケースも多いため、法定手続を遵守することが不可欠である。

注意すべき点

作成にあたっては、インドネシア労働法(労働法第13号)および関連政令との整合性を保つことが求められる。とくに、就業時間、休日、残業、解雇手続、賃金支払いなどについては法定基準を下回る内容を記載することはできない。労働者に不利益な条項が含まれる場合、労働局によって修正を求められる可能性があるため、現地法務専門家による確認が推奨される。

就業規則の内容

就業規則には、労働条件や勤務体系に関する事項が詳細に定められる。代表的な内容としては、労働時間・休日・残業・休暇制度・報酬体系・賞与・評価基準・懲戒処分・退職手続などが挙げられる。また、労働者の安全衛生に関する取り決めや、ハラスメント防止、企業倫理に関する規定を盛り込むことで、社内ガバナンスの強化にもつながる。

作成手続等

就業規則はまず企業内部で草案を作成し、労働者代表(または労働組合)と協議を行ったうえで合意形成を図る。その後、完成した規則を所轄の労働局に提出し、承認を受けることで正式に発効する。承認後は、すべての労働者が内容を理解できるようインドネシア語で明記し、社内に掲示または配布することが義務づけられている。

周知義務

就業規則が承認された後、企業には従業員への周知義務がある。これは、労働者が自らの権利と義務を理解し、労使トラブルを未然に防ぐことを目的としている。多くの企業では、社内イントラネットや掲示板、説明会などを通じて内容を周知し、従業員が自由に閲覧できる環境を整えている。

変更

労働法改正や経営方針の転換などにより就業規則を変更する場合も、再び労働者代表との協議と労働局への届け出が必要となる。変更内容は従業員に不利益を与えないよう十分に配慮し、必要に応じて補足説明を行うことが望ましい。適正な手続きを経ずに規則を変更した場合、行政からの指導や罰則の対象となるため、慎重な対応が求められる。

賃金・賞与・退職金・残業代に関するインドネシアの労働法制の概要

賃金の定義

賃金

インドネシアの労働法において「賃金(Upah)」とは、労働契約や企業規定、政府の定める法令に基づき、労働者がその労働の対価として受け取る金銭を指す。基本給のほか、手当・賞与・ボーナスなどが含まれる場合もあり、雇用契約で定められた労働内容に応じて支払われるのが原則である。労働者の生活の安定と労使関係の公正さを確保するため、賃金は労働時間・成果・勤務形態に応じて公平に支払われなければならない。インドネシアでは「最低賃金制度」が法的に定められており、使用者が最低水準を下回る賃金を支払うことは法律で禁止されている。

賃金体系

賃金体系は、企業ごとに異なるが、一般的には「基本給+固定手当+変動手当」という構造で構成されている。固定手当には交通費や住宅手当などが含まれ、変動手当としてはインセンティブ、販売手数料、出勤日数による補償などがある。製造業では職務等級ごとの賃金表を定める「グレード制」を導入する企業も多く、職種・能力・勤続年数に応じて昇給が行われる仕組みが整っている。労働契約書には必ず賃金の構成要素を明記することが義務づけられており、雇用者はその内容を労働者に明確に説明する必要がある。

残業手当

残業に対する割増賃金(Overtime Pay)は、インドネシア労働法で厳密に規定されている。法定労働時間は1日8時間または週40時間を超えない範囲とされ、これを超えて勤務した場合には、通常賃金の1.5倍以上の残業手当を支払うことが義務となる。残業は原則として労働者本人の同意が必要であり、使用者が一方的に命じることはできない。また、残業時間の上限も1日3時間・週14時間と定められており、これを超える場合は労働監督機関の特別許可が必要となる。

支払方法等

支払方法

賃金は原則としてインドネシア通貨(ルピア)で支払われ、現金または銀行振込による支払いが一般的である。支払い方法は労働契約や就業規則に基づき明示される必要があり、労働者の同意なしに変更することはできない。電子送金の普及により、近年では給与口座への振込が主流となっており、ペーパーレスの給与明細システムを採用する企業も増えている。

支払時期

賃金の支払いは少なくとも月1回以上行われることが義務づけられており、支払日は労働契約で明記する必要がある。月末締め・翌月払いの形態が一般的だが、業種によっては週払い・日払いのケースも存在する。支払いの遅延は法令違反となり、違約金や罰則の対象となることがある。

最低賃金(Minimum Wages)

インドネシアの最低賃金は「全国最低賃金」と「州・県・市レベルの最低賃金」の2層構造で定められており、地域の物価水準や生活費、経済成長率に基づいて毎年見直される。特にジャカルタやスラバヤなどの都市部では生活コストが高いため、地方に比べて高めの水準が設定されている。使用者はこの最低賃金を下回る給与で労働者を雇用することはできず、違反が発覚した場合には行政指導や罰則が科される。

退職金

退職手当(Severance Pay / Uang Pesangon)

退職手当は、雇用関係が終了した際に労働者へ支払われる補償金であり、勤続年数に応じて計算される。解雇、契約満了、または会社都合による退職など、労働者の責によらない離職の場合に支給されるのが一般的である。金額は法律で明確に定められており、勤続1年につき1ヶ月分の給与を基準とし、最長9ヶ月分までの支給が義務づけられている。

勤続慰労金(Tenure Award / Uang Penghargaan Masa Kerja)

勤続慰労金は、長期間勤務した労働者に対して企業が支払う感謝の意を表す報奨金である。5年以上の勤務者を対象に、勤続年数ごとに段階的に支給額が増加する。退職金とあわせて支払われるケースが多く、企業の労使関係を良好に保つ役割を果たしている。

権利損失補償金(Compensation of Rights / Uang Penggantian Hak yang Seharusnya Diterima)

この補償金は、労働契約上の未払い権利や休暇の未消化分など、労働者が本来受け取るべき利益を保証するためのものである。残存有給休暇の買い取り、帰省費用、住宅補助などが含まれることが多い。

解雇金等(Detachment Money / Uang Pisah)

解雇金は、労働者が自発的に退職した場合や契約違反による解雇時に支払われる補償である。必ずしも法定義務ではないが、企業が自主的に規定しているケースが多く、雇用契約や就業規則に基づいて支払額が決定される。

賞与・宗教祭日手当等

賞与・ボーナス

賞与(Bonus)は企業業績や個人評価に応じて支給されるもので、必ずしも法定義務ではないが、インドネシアでは多くの企業が慣行として年1回以上支給している。製造業や金融業では業績連動型のボーナス制度を採用する企業も多く、給与の1〜3ヶ月分が支給されるケースが一般的である。

宗教祭日手当

宗教祭日手当(THR:Tunjangan Hari Raya)は、イスラム教徒の断食明け大祭「レバラン(イドゥル・フィトリ)」前に支給される特別手当であり、全労働者に対して支給義務がある。1年以上勤務している労働者には1ヶ月分の基本給が支給され、1年未満の勤務者には勤務期間に応じて按分される。この制度は国籍や宗教を問わず適用され、宗教的行事を尊重する文化的背景を反映している。

一般的な休日等

祝日

インドネシアには国民の宗教的多様性を反映した祝日制度があり、イスラム教・キリスト教・ヒンドゥー教・仏教など、複数宗教の祭日が公休日として認められている。毎年政府が発表するカレンダーに基づき、平均で年間15日前後の祝日が設定される。

長期休暇

企業によっては、一定年数勤務した従業員に対し「長期休暇(Cuti Panjang)」が認められており、通常は6年ごとに1ヶ月間の有給休暇が付与される。この制度は長期勤続を奨励する目的で導入されており、大企業を中心に広く採用されている。

祈祷休暇

イスラム教徒は1日5回の礼拝を行う義務があり、企業は労働時間中でも短時間の祈祷休暇(Sholat Time)を認める必要がある。特に金曜日の「ジュムア礼拝」は重要な宗教行為とされ、この時間帯に会議や業務を設定しないのが一般的な配慮である。

慶弔休暇

結婚、出産、親族の死去など、人生の重要な出来事に対しては「慶弔休暇(Cuti Khusus)」が認められている。日数は事由に応じて異なり、結婚の場合は3日間、近親者の死去では2日間など、法令で明確に定められている。

年次有給休暇

インドネシアの労働者は、12ヶ月以上継続勤務した場合に12日間の有給休暇を取得する権利を持つ。休暇の分割取得も可能だが、雇用者は取得申請を正当な理由なく拒否することはできない。有給休暇の未消化分は退職時に金銭で補償されるケースも多い。

その他傷病休暇等

病気やけがによる休業の場合、労働者は診断書の提出により一定期間の有給病気休暇を取得できる。休業中の給与支払い割合は勤務期間に応じて定められており、長期休養が必要な場合には社会保険制度(BPJS Ketenagakerjaan)からの補償が適用される。


普通解雇・懲戒解雇・整理解雇の手続きと注意点

雇用関係の終了について

概説

インドネシアの労働法では、労働者の雇用を終了させることは極めて慎重に取り扱われている。企業が自由な判断で解雇することは認められておらず、法律に定められた正当な理由と手続きを経なければならない。解雇を行う際には、まず雇用継続の努力を尽くすことが義務付けられており、労使間での話し合いによって合意を目指すことが原則とされている。また、労働者が解雇に異議を唱えた場合には、産業関係裁判所(Industrial Relations Court)の判断を経る必要があり、裁判所の最終決定が下るまでは雇用関係が継続しているものとみなされる。このように、労働者保護を重視する法体系のもと、企業は慎重に手続きを踏む必要がある。

解雇に至るまでの流れ

解雇手続きはまず、会社が労働者や労働組合に対し文書で解雇理由を通知することから始まる。通知を受けた労働者が同意しない場合は、労使間で協議を行い、合意形成を試みる。合意に至らない場合は、労働争議解決手続きに進み、最終的には産業関係裁判所の判断を仰ぐ必要がある。この間、企業は労働者への賃金支払いを継続しなければならず、不当解雇と判断された場合には復職や補償金の支払いを命じられることもある。自己都合退職であっても、労働者は退職日の30日前までに書面で通知しなければならず、労使双方の合意に基づいた正式な手続きが求められる。

留意点

インドネシアでは、病気、宗教的義務、結婚、妊娠、出産、または労働組合活動などを理由とする解雇は禁止されている。特に宗教行事や祈祷による欠勤は、賃金が保証される上、有給扱いとされることが多い。こうした制度は、多宗教国家であるインドネシアの文化的背景を反映しており、企業は労働者の信仰や文化的慣習を尊重した対応を取らなければならない。


普通解雇

インドネシアの労働法では、日本でいう「普通解雇」に該当する制度は明確に存在しない。能力不足や勤務態度不良を理由にした解雇は、法的に正当な理由として認められにくく、実務上も極めて困難である。そのため、企業は採用時の選考や試用期間の設定を慎重に行い、雇用後に不適合が判明する事態を防ぐことが重要である。解雇を行う場合は、事前の警告や是正の機会を設けるなど、段階的な対応を経た上でなければならず、突然の契約解除は不当解雇と判断される可能性が高い。


懲戒解雇

警告書

懲戒解雇を行う前には、必ず段階的な警告手続きを踏まなければならない。警告書は第1から第3までの三段階に分かれており、それぞれの警告の有効期間は6カ月以内と定められている。会社は労働者の違反行為を確認した際、まず第1警告書を発行し、改善が見られない場合に第2、第3へと進む。6カ月以内に同様の違反が再発した場合、次の警告書を出すことができるが、6カ月を超えるとリセットされる仕組みになっている。こうした段階的警告は、労働者に改善の機会を与えると同時に、会社が合理的な判断を行った証拠にもなる。

懲戒解雇に至るまでの流れ

懲戒解雇を実行する際には、会社はまず違反の内容を明確にし、証拠を基に警告手続きを順に進めなければならない。第3警告書を経てもなお改善が見られない場合にのみ、解雇が可能となる。ただし、解雇の決定には産業関係裁判所の承認が必要であり、会社の判断だけでは効力を持たない。さらに、懲戒解雇であっても退職金や未払い賃金の支払い義務が発生する場合があるため、法的リスクを避けるためには、事前に就業規則や労働協約の整備が不可欠である。

その他留意点等

無断欠勤や勤務不良による懲戒解雇を行う場合、会社はまず書面による召喚を2回行わなければならない。それでも労働者が5日以上連続して出勤しない場合に、正式な解雇手続きに入ることができる。これらの通知記録や証拠書類は、裁判所の判断において非常に重要な要素となるため、企業は書面管理を徹底する必要がある。また、懲戒処分の内容は労働組合との合意を経て定められることが多く、会社側が一方的に規定することは認められない。


整理解雇

整理解雇は、経営上の理由により人員削減を行う場合に認められる手続きである。会社の業績悪化、損失の継続、経営効率化、破産、不可抗力による事業停止などが該当理由となる。これらの場合でも、会社はまず労働者や労働組合と事前に協議を行い、合意形成を試みる必要がある。経営上の理由による一時的なレイオフも可能だが、その期間中は基本給と固定手当を全額支払う義務がある。整理解雇を実施する際は、解雇理由を文書で明示し、退職金や補償金の支払いを含む誠実な対応が求められる。


解雇手当

インドネシアの労働法では、解雇や退職の理由に応じて支払う手当が明確に定められている。主なものは、退職手当(Uang Pesangon)、勤続慰労金(Uang Penghargaan Masa Kerja)、権利損失補償金(Uang Penggantian Hak)である。これらは労働者の勤続年数と賃金を基準に計算され、法律で細かく規定されている。たとえ労働者が自己都合で退職した場合でも、一定の条件を満たせば補償金が支払われることがあり、企業は適切な計算と支払いを怠ってはならない。特に退職金制度の運用を誤ると、後に労働者から訴訟を起こされるケースもあるため、常に最新の法令を確認しながら慎重に対応することが重要である。

外国人の就労ビザ制度と取得要件のポイント

インドネシアでの外国人雇用は、経済成長に伴い多様な分野で需要が高まっている一方で、法制度上は依然として厳格な管理下に置かれている。外国人がインドネシアで就労するためには、目的に応じたビザおよび就労許可を取得しなければならず、これらの手続きは他のASEAN諸国と比較しても複雑かつ時間を要する傾向がある。ビザ申請から実際の就労開始までには、複数の政府機関を経由した承認が必要であり、法務人権省および労働省の指導のもとで進められる。特に2021年施行の「外国人労働者利用に関する政府規則第34号」により、申請手続きの電子化と一本化が進められたが、現地実務では依然として省庁間の運用差が残るため、最新の法改正や通達を常に確認することが重要である。


出入国・滞在に関するビザの種類と特徴

インドネシアでは、外国人の滞在目的に応じて複数のビザカテゴリーが設けられている。特に就労や長期滞在を目的とする場合には、正しいビザを選択しなければならず、誤った種類で入国した場合は罰則や強制退去の対象となることもある。ビザの種類は、就労目的の「Eビザ」から、短期出張者向けの「Dビザ」「Cビザ」、さらに観光やビジネス面談などを目的とする「VOA(到着ビザ)」まで多岐にわたる。これらのビザは、滞在可能期間、再入国の可否、活動範囲などがそれぞれ異なるため、申請前に会社側の人事部門や現地エージェントと連携して、最も適切な選択を行うことが求められる。


就労ビザ(E23、E24、E25等)

Eビザは、インドネシアでの就労を目的とした最も一般的な滞在許可であり、勤務内容やポジションに応じて複数のサブカテゴリーに分かれている。たとえば、E23は一般的な就労目的、E24はデジタル関連業務、E25は役員・顧問職としての就労に適用される。申請には、外国人雇用計画書(RPTKA)の承認、ビザ発給推薦状(TA-01)、限定滞在ビザ(VITAS)、一時滞在許可(ITAS)の取得といった複数の段階があり、これらはオンライン申請システムを通じて進められる。特に、E25など経営職の場合は追加資料の提出が求められる場合もあり、手続きには細心の注意を払う必要がある。


マルチ・ビジットビザ(D2、D17)

マルチ・ビジットビザは、インドネシアへの頻繁な往来を伴う業務を行うビジネス関係者向けのビザである。このビザを所持することで、有効期間内に何度でも入国が可能となり、会議参加や商談、監査などの業務に対応できる。ただし、労働行為に該当する活動は認められておらず、現地での直接的な業務従事は違法とされる。滞在可能期間は一度の入国につき最大60日であり、継続滞在を希望する場合には再入国が必要となる。


ワンウェイ・ビジットビザ(C2、C17、C19、C20等)

ワンウェイ・ビジットビザは、単回利用を前提とした短期滞在者向けのビザで、商談や機械の設置、技術支援などを目的とする場合に発給される。C19やC20は、販売後のアフターサービスや機械の修理、据付作業を行う外国人技術者によく利用されている。就労ビザと異なり、これらのビザでは現地で報酬を受け取ることは原則認められていないが、技術支援など一定の作業を行うことができるため、短期間の出張や技術支援業務を行う企業にとって有用である。


到着ビザ(B2 /VOA)

到着ビザ(Visa on Arrival, VOA)は、日本を含む特定の国からの入国者に対して空港や港で発給される最も簡易なビザである。主に商談、会議、視察などの短期ビジネス目的での利用が想定されており、滞在可能期間は30日間、延長により最大60日まで滞在が認められる。電子申請にも対応しており、オンラインでの事前登録を行うことで、到着時の手続きを大幅に短縮できるのが特徴である。ただし、このビザでは就労行為は一切認められていないため、実務作業を伴う業務の場合には別のビザが必要となる。


就労許可制度の概要

インドネシアで外国人が合法的に働くためには、ビザに加えて就労許可の取得が必須である。会社はまず「外国人雇用計画書(RPTKA)」を労働省へ提出し、承認を得る必要がある。承認後、外国人労働者利用補償基金(DKP-TKA)を支払い、「通知書(Notifikasi)」を取得することで正式な雇用許可が発効する。これにより、労働者は入国後に「一時滞在許可(ITAS)」を申請し、実際の勤務を開始できる。申請には、雇用契約書、組織図、銀行残高証明、学歴証明など多岐にわたる書類の提出が求められ、職種ごとに定められた条件を満たしている必要がある。特にマネージャー以上の職位には12カ月までの許可が与えられることが一般的であり、更新には再度の申請が必要となる。


外国人雇用に関する注意点

外国人の雇用にあたっては、インドネシア特有の規制や慣行を理解することが不可欠である。法令上、外国人労働者の雇用は「インドネシア人労働者への技術移転を前提とする」という理念のもとに成り立っている。したがって、外国人雇用には一定の制限や義務が設けられており、企業はそれらを遵守しなければならない。


ローカル労働者雇用の要請

外国人1人を雇用する場合には、少なくとも1名以上のインドネシア人を補助人材(アンダースタディ)として配置することが推奨されている。過去には「外国人1名に対してインドネシア人10名の雇用」という厳しい規定も存在したが、現在では業種や職位によって柔軟に運用されている。政府は外国人労働者の受け入れを、国内人材育成の一環として位置付けているため、企業は採用時に現地人材へのスキル移転計画を策定しておくことが望ましい。


外国人労働者の業務制限

インドネシアでは、外国人労働者が従事できる職務範囲が明確に定められている。原則として経営・管理・専門職などの高付加価値業務に限定され、人事や総務といった内部統制部門への従事は禁止されている。また、複数の企業に同時に雇用されることも認められておらず、特定の雇用主のもとでのみ労働が可能である。違反した場合には、就労許可の取り消しや罰金処分が科せられる可能性があるため、職務内容や役職の適法性を事前に確認することが求められる。


その他の留意点

外国人労働者は、6カ月を超えてインドネシアで就労する場合、社会保障制度(BPJS)への加入および納税者番号(NPWP)の取得が義務付けられている。また、現地での滞在期間や報酬額に応じて所得税の支払い義務も発生するため、企業側は税務・労務の両面で管理体制を整えておく必要がある。さらに、入国管理局や労働省は外国人就労の取り締まりを強化しており、適切な許可を取得していない場合には罰則や強制退去の対象となることもある。こうしたリスクを避けるためにも、常に最新の法改正情報を把握し、専門家のサポートを得ながら制度運用を行うことが、安定した事業展開の鍵となる。

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