攻めではなく守りの海外戦略──なぜ今、中堅企業にインドネシアが必要なのか

「海外進出=拡大戦略」という思い込み

これまで海外進出は「攻めの戦略」と語られてきました。
売上拡大、新市場開拓、グローバルブランド化――。

高度経済成長期からバブル期、そして2000年代前半にかけて、日本企業にとっての海外展開は「次の成長エンジン」でした。国内で確立したビジネスモデルを海外へ横展開し、売上を倍増させる。ブランドを世界へ広げる。そうしたストーリーが語られてきました。

しかし、現在の日本企業、とりわけ中堅企業にとっての海外戦略は、意味合いが変わりつつあります。

人口減少(将来的に1億人割れ)
高齢化率30%超
人材不足の慢性化
円安による仕入れコスト上昇
国内市場の成長鈍化

これらは一過性の問題ではなく、構造的な変化です。市場が縮小し続ける国において、企業は「拡大」よりも「持続」を考えなければなりません。

かつては「海外で売上を伸ばす」ことが目的でしたが、いまは「国内依存リスクをどう下げるか」がテーマになりつつあります。

Timedoorの記事でも指摘されている通り、インドネシアは「初めての海外進出先」として選ばれるケースが増えています。その理由は単なる市場規模ではありません。

“守りの海外戦略”としての機能があるからです。

つまり、インドネシア進出は「攻め」ではなく、
日本一本足打法からのリスクヘッジという文脈でこそ刺さるのです。

本記事では、この「思い込みの転換」を、法制度と経営構造の両面から整理します。

「海外進出=拡大戦略」という思い込み

これまで海外進出は「攻めの戦略」と語られてきました。
売上拡大、新市場開拓、グローバルブランド化――。

しかし、その前提は「国内が安定している」という時代背景の上に成り立っていました。

国内市場が伸び、人口が増え、雇用も比較的安定していた時代においては、海外は“余力を使った挑戦”でした。
ところが現在、日本企業、とりわけ中堅企業が直面している現実はまったく異なります。

人口減少(将来的に1億人割れ)

高齢化率30%超

人材不足の慢性化

円安による仕入れコスト上昇

国内市場の成長鈍化

これらは一時的な景気循環ではありません。構造的変化です。

国内市場が縮小する中で、
「国内一本で頑張る」という戦略自体が、実は最もリスクの高い選択肢になりつつあります。

中堅企業にとって最大のリスクは、「挑戦しないこと」ではなく、「構造変化を放置すること」です。

インドネシアは、近年「初めての海外進出先」として選ばれるケースが増えています。
その理由は単なる市場規模ではありません。

“守りの海外戦略”としての機能があるからです。

つまり、インドネシア進出は「攻め」ではなく、
日本一本足打法からのリスクヘッジという文脈でこそ刺さるのです。


なぜインドネシアが“守りの拠点”になるのか

「守り」とは、縮小市場の中で耐えることではありません。
分散することです。

企業経営における分散とは、

・収益源の分散
・通貨リスクの分散
・人口動態リスクの分散
・人材確保リスクの分散

を意味します。

インドネシアは、これらの分散先として極めて合理的な条件を備えています。


① 人口動態の安定性

人口:約2.7億人

平均年齢:約30歳

中間層の拡大

日本とインドネシアの最大の違いは「人口ピラミッドの形」です。

日本は逆三角形型。
インドネシアは安定したピラミッド型。

若年層が厚い国では、

・消費が自然に増える
・労働力が供給される
・住宅需要が増える
・教育需要が拡大する

といった循環が生まれます。

人口が増え、都市化が進み、中間層が拡大する。
この三点が揃う国は、長期的に内需が伸びる傾向があります。

インドネシアではジャカルタ首都圏を中心にコンドミニアム開発、商業施設整備が進み、消費インフラが急速に整っています。

若年層が多いということは、

・トレンド感度が高い
・デジタル親和性が高い
・新ブランドへの抵抗が低い

という意味でもあります。

守りの拠点とは、縮小しない市場のことです。


デジタル経済の加速

GoTo

Tokopedia

などの企業群がデジタル経済を牽引しています。

インドネシアは東南アジア最大級のデジタル市場でもあります。

スマートフォン普及率が高く、若年層を中心にオンライン消費が急拡大しています。

GoToは配車・フードデリバリー・決済を統合したエコシステムを構築。
Tokopediaは国内最大級のECプラットフォームとして中小事業者を巻き込みながら拡大しています。

この動きは、日本企業にとって大きな意味を持ちます。

・店舗を持たずにテストマーケティングが可能
・越境ECから段階的参入が可能
・広告費のROIが測定しやすい

つまり、初期投資リスクを抑えながら市場検証ができます。

守りの戦略とは、「大きく張らないこと」です。
小さく始めて、検証し、拡張する。

インドネシアはそれが可能な市場です。


② 経済成長率の持続性

GDP成長率約5%前後を維持。
ASEAN最大の消費市場。

成長率5%という数字は、単なる統計ではありません。

それは、

・企業の売上が自然に伸びやすい
・賃金が上昇し購買力が高まる
・銀行融資が活発化する

という連鎖を意味します。

日本が低成長局面にある中で、5%前後の安定成長を維持する国に拠点を持つことは、経営上のバランスを取る行為です。

重要なのは、「攻めるため」ではなく、
“事業の第二の柱”を持つための市場と考えることです。

国内売上が横ばいでも、海外売上が成長すれば全体は安定します。

円安が進行しても、現地通貨建て収益があれば為替リスクを緩和できます。

国内人材不足でも、現地採用でオペレーションを補完できます。

これは攻めではありません。
財務安定化戦略です。


中堅企業にこそ意味がある理由

大企業はすでにグローバル展開を進めています。
一方で中堅企業は、国内依存度が高いケースが多い。

中堅企業の課題は、

・投資余力が限られる
・人材が限られる
・意思決定が遅れると致命傷になる

という点です。

だからこそ、

・市場が拡大方向にある
・テスト参入が可能
・法制度が比較的整備されている

インドネシアのような国が現実的選択肢になります。

守りの戦略とは、
“今すぐ全力で出る”ことではありません。

5年、10年後に備え、選択肢を持つことです。


一本足打法のリスク

日本市場一本足打法は、現在以下のリスクを抱えています。

・需要減少
・人件費上昇
・競争激化
・価格転嫁困難

これらが同時進行する環境では、内部努力だけで打開するのは困難です。

努力不足ではありません。
環境変化です。

その環境変化に対する合理的な対応が「分散」です。

しかし、制度理解なき進出は失敗する

インドネシアは、東南アジア最大級の人口規模を持ち、GDP成長率も安定している魅力的な市場です。若年人口が多く、消費市場は拡大を続け、デジタル経済も急成長しています。しかし、その一方で「制度を理解せずに参入した企業の撤退例が少なくない」という現実があります。

なぜか。
答えはシンプルです。

インドネシアは「市場理解」だけでは不十分で、「制度理解」を前提とした戦略設計が不可欠な国だからです。

表面的には投資歓迎姿勢が強調されますが、実務の世界では、外資規制、会社法手続き、競争法届出、労働法リスクなど、複数の制度が横断的に関与します。これらを軽視すると、営業停止、無効取引、制裁金、労働紛争といった重大リスクに直面します。

以下、主要制度ごとにその本質を整理します。


① 投資法(Law No.25 of 2007)

外資企業(PMA)設立には投資法が適用。

インドネシアで外国資本が事業を行う場合、基本形態はPT PMA(外国投資会社)です。この設立根拠が投資法(Law No.25 of 2007)です。

この法律は、
・外国投資家の権利
・内外資の平等原則
・投資優遇措置
・国家の管理権
を規定しています。

しかし、実務で最も重要なのは「業種別外資規制」です。

業種別外資規制(ポジティブリスト制度)
KBLIコード確認必須

現在はポジティブリスト制度が採用されており、開放業種・制限業種が明確化されています。しかし問題は、どの業種に該当するかを決めるのがKBLI(事業分類コード)である点です。

KBLIは単なる分類番号ではありません。
外資比率制限、必要ライセンス、監督官庁、リスク区分が連動します。

例えば同じ「小売」でも、
・大規模小売
・電子商取引
・輸入販売
では外資制限や許認可が異なる場合があります。

誤認は営業停止リスク。

KBLI誤登録により、営業許可が無効と判断される事例もあります。つまり、参入可能な分野でも分類設計を誤れば事業停止に至る可能性があります。

制度理解のない進出は、設立段階で致命傷を負うリスクを孕みます。


② 会社法(Law No.40 of 2007)

インドネシアの会社法は形式主義が強く、日本の実務とは大きく異なります。

株式譲渡は公証人手続き必須
法務人権省(MOLHR)登録

株式譲渡は私的契約だけでは完結しません。公証人立会いが必要であり、さらに法務人権省(MOLHR)への登録を経て初めて効力が確定します。

M&Aでも形式手続きが極めて重要。

SPA(株式譲渡契約)を締結しても、
・株主総会決議
・定款変更
・公証手続き
・MOLHR登録
を経なければ法的効力は確定しません。

日本型の「契約締結=実質完了」という感覚は通用しません。

形式不備は、
・株主権限の無効
・銀行口座変更不可
・ライセンス更新停止
など実務上重大な問題に直結します。

会社法は厳格ですが、裏を返せば透明で予測可能な制度です。ルールを理解している企業にとっては安定した環境ですが、軽視する企業にはリスクの塊となります。


③ 競争法(Law No.5 of 1999)

一定規模以上のM&Aで
KPPUへの30日以内届出義務。

インドネシアでは、一定の売上・資産基準を超える企業結合に対して、KPPU(競争委員会)への届出義務があります。

これは事後報告型ですが、軽視は禁物です。

JETRO資料でも重要論点。

無届の場合、制裁金や追加審査命令の対象となります。

特に近年は、
・デジタルプラットフォーム
・EC
・物流
・金融テック
など成長分野で競争政策が強化されています。

市場拡大に伴い、規制も強化方向へ進む傾向があります。

M&A価格算定時には、競争法リスクも考慮すべきです。審査が長期化すればクロージングが遅れ、統合計画に影響を与えます。

競争法は単なる形式届出ではなく、事業戦略そのものに影響を与える制度です。


④ 労働法(Law No.13 of 2003)

インドネシアの労働法は、東南アジアでも特に労働者保護色が強い制度です。

解雇時退職金:最大32ヶ月分
最低賃金(ジャカルタで月500万ルピア超)

解雇は一方的に行えません。労使協議が必要であり、場合によっては労働裁判所の判断を要します。

退職金(セベランス)は勤続年数に応じて増加し、最大で基本給32ヶ月分相当となるケースもあります。

労務債務は重大な財務リスク。

例えば100名規模の企業で人員整理を行えば、数億円規模の支払いが発生する可能性があります。

さらに、最低賃金は州ごとに異なり、ジャカルタは高水準です。拠点選定は単なる立地問題ではなく、長期コスト構造を決定します。

日本的な人事慣行をそのまま導入すると、
・契約区分誤用
・宗教配慮不足
・残業管理不備
が労働紛争に発展します。

M&Aでは労働契約が承継されるため、未払債務や紛争リスクは買収側が引き継ぐことになります。


制度理解は「守り」ではなく「戦略」

インドネシアは制度が厳しい国ではありません。
制度を前提に設計すべき国です。

投資法で入口を設計し、
会社法で形式を整え、
競争法で市場影響を確認し、
労働法で人材戦略を構築する。

これらを横断的に設計できる企業だけが、持続的に成長できます。

制度理解なき進出は、
・営業停止
・無効取引
・制裁金
・労働紛争
という形でコストとして跳ね返ります。

インドネシアは巨大な機会を持つ市場です。
しかし、その機会は制度理解と引き換えに与えられるものです。

制度を軽視すれば撤退。
制度を味方にすれば成長。

この差が、インドネシア進出の成否を分けます。

守りの海外戦略としてのM&A

ゼロから進出するよりも、
現地企業を取得するM&Aは合理的な分散戦略です。

インドネシアに新規参入する場合、法人設立、KBLI(事業分類コード)の選定、OSS登録、業種別ライセンス取得、労務設計、税務登録、商流構築といった複数の工程を順にクリアする必要があります。これは理論上は可能であっても、実務上は時間・人材・制度理解力を要するプロセスです。特に日本本社が制度運用の細部まで把握していない場合、想定外の遅延や再申請が発生し、進出コストは当初想定の1.5倍、2倍に膨らむことも珍しくありません。

その点、既存企業を取得するM&Aは、制度上の基盤をすでに整備した状態からスタートできる点が大きな利点です。守りの海外戦略という観点では、「時間を買う」「許認可を買う」「人材を買う」戦略とも言えます。これは単なる拡大戦略ではなく、日本市場依存リスクを緩和するための構造的な分散策です。

メリット:

許認可取得済み

人材確保済み

販路構築済み

まず、許認可取得済みという点は非常に大きな意味を持ちます。インドネシアでは、事業活動にはNIB(事業基本番号)、営業許可、場合によっては環境許可や特別ライセンスが必要です。KBLIの選定を誤れば、外資規制に抵触する可能性もあります。既存企業を取得することで、これらのライセンス取得に伴う初期リスクを回避できる可能性があります。

次に、人材確保済みという点です。インドネシア労働法(Law No.13/2003)および雇用創出法改正では、解雇時に最大32ヶ月分相当の退職金が発生するケースがあります。つまり、採用は比較的容易でも、組織再編は高コストです。すでに現地事情に精通した人材を抱える企業を取得することは、制度適応コストの削減につながります。

さらに、販路構築済みという点も見逃せません。インドネシアは地理的に広大で、島嶼国家特有の物流課題があります。現地ディストリビューターや販売ネットワークとの関係構築には時間がかかります。M&Aによってこれらのネットワークを引き継ぐことは、市場浸透スピードを加速させる効果があります。

ただし、

未払税金

労働紛争

土地権利(HGB)

OSS未更新

などの法務リスクも承継。

M&Aは「良い部分だけ」を取得する行為ではありません。企業の過去の履歴、債務、契約関係を包括的に引き継ぐ行為です。未払税金が存在すれば、買収後に税務調査が入り、追徴課税を受ける可能性があります。法人税(22%)、VAT(11%)、地方税など、多層的な税務体系の中で未処理事項があれば重大なリスクになります。

労働紛争も重大な論点です。未払い残業代、宗教大祭手当(THR)の不払い、PKWT(有期契約)の不適切運用による無期契約化リスクなどは、買収後に顕在化するケースがあります。

土地権利(HGB:Hak Guna Bangunan)の確認も不可欠です。HGBの残存期間、更新可能性、担保設定状況を精査しなければ、事業基盤が不安定になる可能性があります。

OSS未更新は形式的な問題に見えますが、実務上は営業停止リスクに直結する可能性があります。NIBや事業許可の有効性は常に確認が必要です。

Business Lawyersでも東南アジアM&AはDDの質が重要と指摘。

デューデリジェンス(DD)は単なるチェックリストではなく、将来リスクを数値化し、価格に反映させるプロセスです。株主名簿の整合性、外資規制適合性、競争法(Law No.5/1999)に基づくKPPU届出義務、労務債務、税務リスクなど、横断的な精査が必要です。


中堅企業にこそ必要な“分散設計”

大企業は既に多拠点化しています。
しかし中堅企業は依然として日本依存度が高い。

多くの中堅企業は、売上の8割以上を国内市場に依存しているケースも少なくありません。人口減少、為替変動、国内需要縮小というリスクを単一市場で受け止める構造は、2030年代において脆弱性を高める可能性があります。

分散経営に必要なのは:

✔ 外資規制理解
✔ 契約設計力
✔ 労務リスク把握
✔ 実行伴走体制

外資規制理解とは、投資法(Law No.25/2007)およびポジティブリスト制度を踏まえた出資比率設計です。業種によっては外資100%が可能であり、誤解による機会損失は避けるべきです。

契約設計力とは、SPA(株式譲渡契約)、SHA(株主間契約)、表明保証条項、エスクロー設計などを通じて、リスクをコントロールする能力です。

労務リスク把握は、退職金債務、契約区分、労働紛争履歴の確認を意味します。買収価格は将来債務を織り込んだ設計が必要です。

実行伴走体制は、単なる助言ではなく、行政対応、公証手続、ライセンス更新、PMI(統合プロセス)まで支援できる体制です。

PT Japan Fitness Indonesiaでは、

外資規制チェック

法務DD

M&Aスキーム設計

実行支援

まで一気通貫で対応。

単なる市場紹介ではなく、制度設計型支援が不可欠です。

分散は「勢い」ではなく「設計」です。制度に適合した器を作らなければ、分散はむしろリスク増幅になります。


まとめ:守りの海外戦略は“制度理解”から始まる

インドネシアは「攻めの市場」ではありません。

✔ 市場分散
✔ 通貨分散
✔ 人材分散
✔ リスク分散

という意味での“保険”です。

しかし成功には、

投資法(Law No.25/2007)

会社法(Law No.40/2007)

競争法(Law No.5/1999)

労働法(Law No.13/2003)

の理解が不可欠。

守りの海外戦略とは、利益を追う前にリスクを制御する戦略です。制度理解なくして分散は成立しません。

日本一本足打法のまま2030年代を迎えるのか。
それとも、二本柱経営へ移行するのか。

中堅企業こそ、いま制度理解から始めるべきです。

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