2035年、日本とインドネシアの立場はどう変わる?
「成長国」と「成熟国」の立場は逆転するのか

2035年。
日本とインドネシアの経済的立場は、いま以上に対照的になる可能性があります。
単なるGDP順位の話ではありません。
人口構造、労働市場、内需規模、投資環境、そして法制度の方向性が、両国で大きく分かれていく可能性が高いのです。
日本では、
人口減少(2035年には1億1,000万人台へ)
高齢化率約30%超
人材不足の深刻化
国内市場の成長鈍化
という構造問題が加速します。
総人口が減少し続ける国では、企業活動の前提が変わります。
市場規模は横ばいか縮小、人件費は上昇、社会保障負担は増加。
設備投資や研究開発への余力が圧迫される可能性があります。
一方、インドネシアは
人口約3億人規模へ拡大
平均年齢30代前半
中間層拡大
GDP世界上位圏入り予測
というダイナミズムを維持する可能性が高いとされています。
インドネシアは現在約2.7億人規模ですが、2035年には約3億人規模に近づくと予測されています。若年層が厚く、労働力人口が増加する「人口ボーナス」期が続くと見込まれています。
ここで重要なのは、インドネシアを「攻めの市場」と見るか、
それとも**“日本一本足打法からのリスクヘッジ拠点”と見るか**です。
中堅企業にとっては後者の意味合いが極めて大きい。
売上を急拡大させるための投機的市場ではなく、
日本市場依存リスクを下げるための第二の収益基盤。
本記事では、法律・制度の観点から2035年の立場変化を読み解きます。
2035年、日本企業に迫る構造リスク
2035年を見据えたとき、日本企業を取り巻く環境は「景気循環」ではなく「構造変化」のフェーズに入っています。
短期的な業績改善や一時的な政策対応では解決できない、不可逆的な変化が進行しています。
ここで重要なのは、「今はまだ大丈夫」という感覚が最も危険だという点です。
構造リスクは、ゆっくり進みながら、ある時点で一気に経営を圧迫します。
特に無視できないのが、以下の三つの要素です。
① 国内市場の縮小
内需縮小は不可逆的です。
成長鈍化は避けられません。
日本の人口はすでに減少局面に入っています。総人口は減少し、生産年齢人口(15〜64歳)はさらに急速に縮小しています。
市場規模は「人口×消費単価」で構成されます。
人口が減少すれば、消費単価が上がらない限り、総需要は縮小します。
特に地方市場では、
・店舗来客数の減少
・不動産価値の下落
・商圏の縮小
が顕在化しています。
都市部でさえ、若年層人口のピークアウトは確実です。
企業努力で商品力を高めることは可能です。しかし、「市場全体が拡大する環境」と「市場全体が縮小する環境」では、同じ努力でも成果の出方が根本的に異なります。
縮小市場では、
・価格競争が激化
・広告費が増加
・LTVの確保が困難
となります。
つまり、利益率が構造的に低下します。
これは一時的な景気後退ではなく、人口構造の変化という不可逆的要因です。
② 人材不足
採用難・賃金上昇が継続。
人材不足はすでに顕在化しています。
有効求人倍率は高止まりし、特にサービス業、建設業、IT分野では慢性的な人手不足が続いています。
少子化により、新卒採用市場は縮小します。
中途市場も取り合いが激化します。
結果として、
・人件費の上昇
・採用コストの増大
・教育コストの増加
が避けられません。
さらに問題なのは、「人材の質」確保の難易度です。
単に人数が足りないだけでなく、
・高度人材の不足
・管理職層の減少
・技術継承の断絶
が進行しています。
企業がどれだけ努力しても、生産年齢人口の減少という母数の問題は解決できません。
これは経営努力の問題ではなく、構造問題です。
③ 円安構造
輸入依存型産業に打撃。
近年の円安は一時的な為替変動ではなく、構造的な側面が強まっています。
日本はエネルギー、食料、原材料の多くを輸入に依存しています。
円安が進行すると、
・仕入れコスト増
・原材料価格上昇
・物流費上昇
が企業収益を圧迫します。
価格転嫁が可能な企業は限られています。
BtoC企業では消費者の購買力が限界に達すると、値上げが困難になります。
輸入依存型ビジネスは特に影響が大きく、
・利益率低下
・在庫評価損
・資金繰り悪化
に直結します。
為替は企業努力で制御できません。
ヘッジは可能ですが、根本解決ではありません。
これもまた構造的問題です。
これらは「努力で解決できる問題」ではなく、構造的問題です。
企業努力は重要です。しかし、構造的リスクは努力だけでは吸収できません。
国内市場縮小 × 人材不足 × 円安構造
この三重苦は、単体で見れば対応可能に見えますが、同時進行すると経営体力を消耗させます。
例えば、
・売上が伸びない
・人件費が上がる
・仕入れコストが上がる
という三方向からの圧力がかかります。
これは利益率を圧縮する典型的な構造です。
2035年に起きること
2035年には、
・団塊ジュニア世代が高齢層へ移行
・社会保障負担増
・可処分所得の伸び悩み
が想定されます。
企業側では、
・国内市場依存の限界
・国内人材確保の限界
・国内コスト構造の限界
が明確になります。
この段階で初めて海外展開を検討する企業は、出遅れる可能性があります。
なぜ「今」なのか
海外展開は即効性のある施策ではありません。
・市場調査
・法制度理解
・パートナー構築
・ブランド浸透
には時間がかかります。
構造リスクが顕在化してから動くのでは遅いのです。
リスクヘッジという発想
重要なのは、「攻め」ではなく「分散」という発想です。
日本一本足打法はリスクです。
国内市場だけに依存する構造は、2035年に向けて脆弱になります。
市場を複数持つこと。
人材供給源を複数持つこと。
通貨収益源を複数持つこと。
これが構造リスクへの対抗策です。
結論
2035年、日本企業に迫る構造リスクは、
① 国内市場の縮小
② 人材不足
③ 円安構造
です。
これらは一過性ではありません。
構造的であり、不可逆的です。
重要なのは、「問題が顕在化してから対処する」のではなく、「構造を前提に戦略を組み直す」ことです。
企業の未来は、環境に適応できるかどうかで決まります。
構造変化を前提にした戦略こそが、2035年を生き抜く条件です。
インドネシアの制度環境はどう変化するか
インドネシアは、東南アジア最大の人口を抱える成長市場であると同時に、法制度改革を積極的に進めている国でもあります。
近年の動きを見ると、「外資を呼び込むための整備」と「国内市場を守るための規制強化」という二つの流れが同時に進行しています。
つまり、制度は単純に“緩和”されるわけでも、“厳格化”されるわけでもありません。
投資促進と市場秩序維持のバランスが取られながら、段階的に再設計されているのが現状です。
ここでは、投資制度、会社法、競争法、労働法という4つの主要領域から、制度環境の変化を読み解きます。
① 投資制度の整備
インドネシアの投資制度の根幹をなすのが、投資法(Law No.25 of 2007)です。
この法律は、外国投資と国内投資の基本枠組みを定め、投資家の権利保護、非差別原則、法的確実性を明文化しています。
さらに、2020年の雇用創出法(Omnibus Law)により、投資関連規制の見直しが大規模に行われました。
複数の法律を横断的に改正することで、許認可の簡素化や手続きの迅速化を目指しました。
最大の変化は、OSS(Online Single Submission)制度の導入です。
OSS制度導入で許認可手続きが電子化。
これにより、事業識別番号(NIB)の取得、業種登録、ライセンス申請がオンラインで一元管理されるようになりました。
従来は省庁ごとに分断されていた申請手続きが、統合的に処理されるようになり、透明性と予測可能性が向上しています。
ただし、電子化=簡単化ではありません。
業種ごとのリスク分類(低・中・高)に応じて追加審査が必要な場合もあります。
今後の方向性としては、
・投資優遇分野の明確化
・リスクベースアプローチの徹底
・地方自治体との制度整合性向上
が進むと予想されます。
インドネシアは、投資を歓迎しつつも、管理型成長モデルを志向していると言えるでしょう。
② 会社法の安定運用
**会社法(Law No.40 of 2007)**は引き続きM&Aの基本法です。
会社設立、株主構成、取締役責任、資本制度、株式譲渡手続きなどを規定しています。
大きな改正は限定的であり、制度としては安定しています。
株式譲渡公証必須
法務人権省登録
インドネシアでは、株式譲渡は公証人の立会いが必要であり、さらに法務人権省への登録を経て効力が確定します。
形式要件は厳格ですが、制度としては安定しています。
この「形式の厳格さ」はリスクでもありますが、裏を返せば、ルールが明確であることを意味します。
今後も会社法自体が大幅に緩和される可能性は低く、安定的な運用が続くと考えられます。
M&A実務においては、
・株主総会決議の整備
・定款変更登録
・取締役変更手続き
など、形式遵守が引き続き重要になります。
制度の安定性は、長期投資にとって安心材料です。
③ 競争法の強化
競争法(Law No.5 of 1999)は、今後強化方向に進むと予測されます。
一定規模以上のM&AでKPPUへの届出義務(30日以内)。
市場規模の拡大とデジタル化の進展に伴い、市場集中度が高まる分野が増えています。
特に、
・デジタルプラットフォーム
・EC
・物流
・金融テック
分野では競争政策が重視されています。
無届の場合は制裁金の対象となります。
今後は、単なる形式的届出にとどまらず、
・市場支配力評価
・価格影響分析
・競争制限条項の精査
がより厳格になる可能性があります。
インドネシアは急成長市場であるがゆえに、競争環境の維持を重要視しています。
投資促進と同時に、公正競争の確保という二軸が制度を動かしています。
④ 労働法のバランス調整
労働法(Law No.13 of 2003)は、依然として労働者保護色が強い制度です。
解雇時退職金:最大32ヶ月分
地域別最低賃金(ジャカルタ月500万ルピア超)
これらの制度は企業にとって重い負担ですが、社会的安定の観点から維持されています。
一方で、雇用創出法改正により一定の柔軟化が行われました。
・有期契約運用の見直し
・退職金算定基準の調整
・アウトソーシング規制の緩和
これらは投資環境改善を意識した調整です。
今後も「完全自由化」ではなく、「社会安定と投資促進の均衡」を図る方向に進むと考えられます。
企業側に求められるのは、
制度変更を待つのではなく、
制度前提で雇用設計を行う姿勢です。
制度は“緩和”と“管理”の同時進行
インドネシアの制度環境は、
投資促進
行政電子化
競争規制強化
労働保護維持
という複合的な動きを見せています。
単純に「緩和される国」とも、「規制が厳しい国」とも言えません。
重要なのは、制度が予測可能な方向へ整備されつつあるという点です。
電子化により透明性が高まり、競争政策により市場秩序が維持され、労働制度により社会安定が確保される。
このバランスが、インドネシアを長期投資に適した市場へと進化させています。
今後の制度環境を読む上で重要なのは、
“短期的な規制変化”ではなく、
“国家としての成長モデル”です。
インドネシアは、外資を活用しながら国内産業を育成する戦略を採っています。
制度環境の変化を理解し、それに適合した戦略を設計できる企業だけが、この巨大市場で持続的に成長できます。
2035年、両国の立場はどう変わるか
2035年には、
日本:成熟市場
インドネシア:成長市場
という位置付けがより明確になります。
この変化は単なるGDP成長率の比較ではありません。人口構造、労働力、消費構造、デジタル浸透率、都市化スピード、そして政策方向性――これらの複合要因が、両国の立場を根本から変えていきます。
日本は少子高齢化がさらに進行し、生産年齢人口は減少傾向が続きます。国内市場は安定しているものの、大きな拡大は見込みにくい「成熟経済」としての性格がより強まります。一方でインドネシアは、若年人口が厚く、都市化が進み、中間所得層が拡大し続ける構造を持ちます。
特に消費市場・デジタル市場では、
GoTo
Tokopedia
のような企業群が経済を牽引しています。
GoToは配車・フードデリバリー・決済を統合したスーパーアプリモデルを展開し、Tokopediaはインドネシア最大級のECプラットフォームとして消費市場を拡張してきました。これらの企業の成長は、単なるスタートアップの成功ではなく、インドネシアが「デジタル消費国家」へ移行している象徴です。
Global Marketing Laboの分析でも、
インドネシアは「消費主導型経済へ移行中」と指摘されています。
従来は資源や製造業が中心だった経済構造が、内需・消費・サービス産業主導へとシフトしています。この構造変化は、2035年に向けてさらに加速する可能性が高いと見られています。
つまり、2035年においては、
日本=安定・収益回収市場
インドネシア=拡大・成長獲得市場
という役割分担がより鮮明になるのです。
M&A戦略はどう変わるか
2035年を見据えるなら、
日本市場:収益確保
インドネシア:成長確保
という二本柱戦略が現実的です。
日本国内では、成熟市場ゆえにオーガニック成長は限定的です。そのため、既存事業の効率化、シェア拡大、再編型M&Aによる利益率改善が中心になります。一方、インドネシアでは市場拡大に伴い、新規事業参入型M&Aや成長投資型M&Aが主流となります。
ここで重要なのが、単なる「海外進出」ではなく、「制度を踏まえた成長設計」です。
その際に重要なのが、
会社法(Law No.40/2007)
投資法(Law No.25/2007)
労働法(Law No.13/2003)
競争法(Law No.5/1999)
を横断した法務設計。
インドネシアM&Aは、日本国内案件とは本質的に異なります。外資規制(ポジティブリスト制度)により、業種によっては外資出資比率に制限があります。KBLI(事業分類コード)を誤れば、営業許可が取得できない可能性もあります。
さらに、競争法(Law No.5/1999)に基づくKPPUへの届出義務や、一定規模以上のM&Aにおける30日以内届出義務も考慮する必要があります。届出を怠れば制裁金リスクが発生します。
労働法(Law No.13/2003)も重大な論点です。解雇時退職金は最大32ヶ月分相当となる可能性があり、買収後のリストラコストは価格設計に直接影響します。未払い退職金や労働紛争履歴はDDの重点確認事項です。
M&Aは単なる投資ではなく、
制度を理解したうえでのリスク分散戦略です。
2035年を見据えたM&Aは、為替分散、人口分散、需要分散の意味を持ちます。しかし、それは「逃げ場」ではありません。制度理解なしに行う海外M&Aは、単なるリスク増幅になります。
成長市場に資本を投下するのであれば、法制度適合を前提とした戦略的設計が不可欠です。
「逃げ場」ではなく「第二の柱」
インドネシアは「逃げ場」ではありません。
第二の柱を築く場所です。
日本国内の人口減少や市場縮小を理由に、単に海外へ移転するという発想は危険です。逃避型進出は、戦略が曖昧になりやすく、制度対応も後手に回ります。
PT Japan Fitness Indonesiaでは、
外資規制チェック
法務DD
M&Aスキーム設計
実行支援
まで一気通貫で対応。
重要なのは、「制度翻訳」と「実行伴走」です。インドネシア法制度は成文法中心でありながら、運用実務においては行政解釈や地域差が存在します。そのため、条文理解だけでは不十分で、実務運用に精通した現地体制が必要になります。
第二の柱を築くとは、
・日本本社と対等な経営拠点を持つこと
・現地人材主導で成長エンジンを回すこと
・制度変更に即応できる法務体制を持つこと
を意味します。
2035年の時点で、日本企業の評価は「国内中心型」か「分散型経営型」かで大きく分かれる可能性があります。分散型経営は、人口構造リスク・為替リスク・政策リスクを平準化する手段でもあります。
まとめ:2035年に後悔しないために
日本一本足打法のまま2035年を迎えるのか。
それとも、分散戦略を持つのか。
インドネシアは「攻め」ではなく、
分散・保険の文脈でこそ価値を持つ市場です。
人口2億7,000万人超の若年市場、デジタル経済の拡大、内需主導型成長――これらは魅力的な要素です。しかし成功には、
✔ 法制度理解
✔ 外資規制確認
✔ 労務リスク把握
✔ M&A設計
が不可欠。
投資法(Law No.25/2007)、会社法(Law No.40/2007)、労働法(Law No.13/2003)、競争法(Law No.5/1999)を横断的に理解し、制度を戦略に組み込む企業だけが、2035年に優位なポジションを築けます。
2035年は、突然訪れる未来ではありません。
今の制度理解と戦略設計の積み重ねが、その時の立場を決定します。
分散は防御ではなく、攻守一体の経営戦略です。
2035年に後悔しないために、今から制度を理解した戦略設計を始めることが重要です。


