インドネシア フィットネス×AIビジネス|生成AI時代に価値ある成長市場を読む
世界的に生成AIが進化し、文章作成やデータ分析、顧客対応などホワイトカラー業務の多くが自動化されようとする今、「80%の仕事がAIに代替される」といわれています。しかし一方で、人と身体の関係性の中で成り立つ産業はAIでは代替できないという視点が重要になっています。本記事では、インドネシアのフィットネス業界の実態を具体的な数値と企業動向を交えて解説し、AI時代におけるフィットネスビジネスの価値を紐解きます。
生成AI時代に問われる、インドネシアのフィットネス事業の価値
生成AIの進化によって、ビジネスの在り方は大きく変わりつつあります。AIは大量データの高速処理や、定型業務・ルーチンワークの自動化において圧倒的な力を発揮します。実際、経理、レポート作成、マーケティング分析、顧客対応の一次対応など、多くのホワイトカラー業務がすでにAIに置き換えられ始めています。
しかし、AIがどれだけ進化しても簡単に代替できない領域が存在します。それが「身体を相手にした体験価値」「人と人の信頼構築」「長期的な継続支援」です。フィットネス事業は、まさにこの代替不能領域の中心に位置しています。
フィットネスは、単に運動方法を教えるビジネスではありません。利用者一人ひとりの身体状態、生活習慣、精神的コンディションを理解し、その変化に応じて適切に伴走することが求められます。トレーニングプログラムや健康相談は、数値やデータだけで完結するものではなく、「対話」「観察」「感覚に基づくフィードバック」が不可欠です。そこには人間的な判断と共感が介在し、AIでは再現しきれない価値が存在します。
特に、成果がすぐに可視化されないフィットネス分野では、継続そのものが最大の課題になります。利用者が途中で挫折しそうなときに声をかけ、安心感を与え、前向きな行動を促す。こうした関係性の積み重ねが、結果として顧客満足度と事業の安定収益につながります。これは効率性や自動化だけでは生み出せない価値であり、生成AI時代において相対的に重要性が高まる要素です。
この構造は、インドネシアという市場環境と非常に相性が良いと言えます。インドネシアは若年人口が多く、都市化と中間所得層の拡大が進んでいます。モノの消費から体験・ライフスタイルへの支出へと価値観が移行する中で、健康や自己投資への関心は今後さらに高まると見られています。その中核に位置するフィットネス事業は、生成AI時代においても有効な事業領域であり続ける可能性が高いのです。
・AIで消える仕事
AIはホワイトカラータスクの多くを高速化・自動化できます。定型的な事務処理、データ入力、数値分析、予測業務などは、今後さらにAI主導で行われるようになるでしょう。その結果、企業は「効率」を軸とした競争から、「どこで人が価値を発揮するのか」という問いに向き合わざるを得なくなります。
一方で、以下のような役割はAIだけでは成立しません。
顧客と信頼関係を築く
身体の状態を実際に確認して対応する
継続的なモチベーションを保つ
これらはいずれも、人間同士の相互作用を前提とした価値です。顧客の微妙な表情や声のトーン、動きの違和感を察知し、適切に対応する能力は、現時点のAIでは再現が困難です。また、信頼関係は時間をかけて築かれるものであり、短期的な効率化とは相反する性質を持っています。
生成AI時代に残る事業は、「効率」を最大化する事業ではなく、「体験」を高める事業です。フィットネスは、利用者の人生や生活習慣に直接関わり、行動変容を支える体験型産業であり、この点でAIによる代替が起きにくい構造を持っています。
・人×身体×信頼が前提のフィットネスはAIが代替できない
フィットネスは単なる運動提供ではありません。重要なのは、「結果体験」「安心感」「信頼感」といった感情的価値です。利用者が「この人に任せたい」「この場所なら続けられる」と感じることが、継続と成果を左右します。
この価値は、対面コミュニケーションや身体との物理的な関わりが前提となります。トレーナーが実際に動きを見て修正し、声をかけ、励まし、時には厳しく指導する。その積み重ねが、利用者の自己効力感や安心感を生み出します。AIはデータ分析や管理面では強力なツールになり得ますが、最終的な価値提供の主体は人間です。
また、フィットネスは成果が出るまでに時間がかかる分野です。短期間で結果が出ないからこそ、途中で不安や迷いが生じます。その局面で、信頼できる人が伴走することが、継続の決定要因となります。こうした「関係性に基づく価値」は、AIによる価格競争やコモディティ化から距離を取ることができ、事業としての安定性を高めます。
・若年人口が多いインドネシアだからこそ、この産業の価値は高まる
インドネシアは人口2億7,000万人を超える巨大市場であり、平均年齢は30歳前後と非常に若い国です。今後も労働力と消費力が長期にわたって供給される人口構造を持っています。
一方で、インドネシアにおけるジム会員率はわずか1%未満と推定されています。これは、フィットネス文化がまだ十分に浸透していないことを意味すると同時に、今後の大きな成長余地を示唆しています。人口が多く、健康意識が高まりつつあるにもかかわらず、利用率が低い市場は、長期的に見て極めて魅力的です。
都市部ではすでに生活習慣病や運動不足が社会課題として顕在化し始めており、「病気になってから治す」のではなく、「健康な状態を維持する」ための行動が求められています。この流れの中で、フィットネスは予防医療的な役割も担うようになり、社会的価値の高い産業として位置づけられつつあります。
・市場規模の推移
インドネシアのフィットネスクラブ・ジム業界は、2022年時点で約3億米ドル(約42億円)の市場規模に達しており、2017~2022年の年平均成長率(CAGR)は約8.7%と高い水準を示しています。これは、健康志向の高まりと都市部でのジム利用増加が背景にあります。
その後、COVID-19の影響により一時的に成長が鈍化し、2018~2023年のCAGRは約4.8%と緩やかになりました。しかし、2023年時点でも市場規模は約3億米ドルを維持しており、需要が底堅いことが確認されています。これは、パンデミックという外的ショックがあっても、健康ニーズそのものは消失しなかったことを意味します。
・今後の成長予測
市場調査では、2024~2029年にかけて年率約12%の成長が見込まれており、2020年代後半には市場規模が約5億米ドル(約70億円)に達する可能性が指摘されています。この成長率は、単なる人口増加ではなく、利用単価の上昇や高付加価値型サービスの拡大によって支えられると考えられています。
特に少人数制、パーソナルトレーニング、ピラティスなどの専門特化型フィットネスは、富裕層・準富裕層を中心に需要が拡大しており、価格競争に陥りにくい構造を持っています。これは、生成AI時代においても収益性と持続性を両立しやすいモデルです。
AI時代に強い事業の条件──インドネシアで少人数フィットネスが選ばれる理由
AI時代において、すべての事業が同じように成長できるわけではありません。生成AIの進化によって、業務効率や生産性が飛躍的に向上する一方で、「AIに代替されやすい事業」と「人の価値が中心に残る事業」の二極化が進んでいます。競争力を持つ事業には、いくつかの明確な共通要素があります。
第一に、標準化できない価値があることです。
AIは標準化・ルール化されたプロセスを高速かつ正確に処理することに長けています。しかし、人の身体や体調は日々変化し、同じ条件が再現されることはほとんどありません。睡眠、食事、仕事のストレス、気候、年齢、既往歴など、無数の要因が重なり合って身体状態は形成されます。そのため、フィットネスにおいては「誰にでも同じ正解」を提供することが難しく、常に個別の調整と判断が求められます。
少人数フィットネスでは、トレーナーが一人ひとりの身体の癖やコンディションを把握し、その日の状態に応じて負荷や内容を微調整します。このようなカスタマイズは、AIが補助的にデータを示すことはできても、最終判断を完全に任せることはできません。標準化できない価値を中核に持つことは、AI時代における大きな防御壁となります。
第二に、顧客との関係性が重要であることです。
フィットネスの成果は、短期間で完結するものではありません。数か月、数年という時間をかけて、身体や生活習慣が変わっていきます。その過程で重要になるのが、「誰と取り組むか」「誰に見てもらっているか」という関係性です。
人は一人では継続が難しく、誰かに認識され、応援され、変化に気づいてもらえることで行動を続けられます。AIは数値やアラートを提示することはできますが、相手の感情の揺らぎや挫折感に寄り添い、適切な言葉をかけることは容易ではありません。少人数フィットネスでは、トレーナーと利用者の距離が近く、信頼関係が築かれやすい構造になっています。この関係性そのものが、サービス価値の一部となり、価格競争に陥りにくい要因にもなります。
第三に、継続性が成果の鍵であることです。
フィットネスは単発利用では本質的な価値を生みません。継続的に利用することで、身体の変化、意識の変化、習慣の定着といった成果が積み重なります。この「継続体験価値」は、時間とともに増幅し、利用者にとって代替しにくい価値へと変化していきます。
AIは、予約管理、データ分析、顧客フォローの自動化などを通じて、継続を支援する役割を果たします。しかし、継続そのものを生み出す原動力は「人との関係性」と「成果体験」です。フィットネス事業は、AIの効率性を取り込みながらも、本質的価値は人が提供し続けるため、AI時代においても将来性の高い市場となるのです。
この構造は、若年人口が多く、これから健康投資が本格化するインドネシア市場と非常に相性が良いと言えます。
大型モデルではなく、少人数・専門型が有利な構造
インドネシアのフィットネス市場を見ると、従来型の大型チェーンが多数存在する一方で、新しいビジネスモデルが次々と生まれています。これは、市場が成熟しきっておらず、顧客ニーズが多様化していることの表れでもあります。
代表的なグローバルブランドとしては、Anytime Fitness が挙げられます。24時間営業という利便性を武器に、インドネシア国内でも約25店舗まで拡大しており、忙しい都市生活者を中心に一定の支持を獲得しています。時間に縛られず利用できる点は、都市化が進むインドネシアのライフスタイルと相性が良いモデルです。
一方で、急成長しているのが地場発の新興プレイヤーです。Fit Hub は、2023年時点でインドネシア国内14都市に60店舗を展開し、約650万ドル(約9億円)の資金調達に成功しています。Fit Hubは、低価格戦略とデジタル機能を組み合わせることで、これまでジムを利用してこなかった層を取り込むことに成功しています。
また、世界的な老舗ブランドである Gold’s Gym も、インドネシアの主要都市5都市で12店舗を展開し、充実したトレーニング設備とブランド力を活かした運営を行っています。筋力トレーニング志向の強い層にとっては、依然として高い認知度と信頼を持つ存在です。
国内ブランドとしては、Osbond Gym が30店舗以上を展開し、ローカル市場での存在感を高めています。さらに、ReFIT Indonesia のように、フランチャイズモデルを活用して地方都市へも展開する企業も増えており、フィットネス市場が都市部だけでなく広域へと広がりつつあることが分かります。
これらの事例から見えてくるのは、「大型チェーン一強」の市場ではなく、多様なモデルが共存し、それぞれの顧客ニーズに応える市場構造です。特に注目すべきなのが、少人数・専門性・地域密着型のモデルが着実に支持を集めている点です。
大型ジムは設備や価格での競争に陥りやすく、利用者の定着率にばらつきが出やすいという課題を抱えています。一方、少人数・専門型のフィットネスは、利用者一人ひとりの成果にフォーカスできるため、満足度が高く、長期利用につながりやすい構造を持っています。
特にFit Hubのような低価格×デジタル機能連動モデルは、スマートフォンアプリやオンラインコンテンツと連携しながら新たな顧客層を開拓しています。AIやデジタルツールを活用して運営効率を高めつつ、現場では人が関わることで体験価値を維持する。このハイブリッド型のモデルは、今後のインドネシア市場において一つの主流になっていく可能性があります。
総じて言えるのは、インドネシアのフィットネス市場では、**規模の大きさよりも「どの価値を提供するか」**が競争力を左右する時代に入っているということです。少人数・専門型フィットネスは、AI時代に強い事業条件を満たしつつ、成長市場であるインドネシアとの相性も極めて高いモデルであり、今後も選ばれ続ける構造を持っていると言えるでしょう。
インドネシアは“次の健康課題大国”になる──だから今、フィットネス事業が必要とされる
インドネシアは現在、東南アジアの中でも特に高い経済成長率を維持し、都市化と中間層の拡大が急速に進んでいます。一見するとポジティブな成長ストーリーの中にある国ですが、その裏側では、これまで表面化してこなかった健康課題が徐々に顕在化し始めています。都市部を中心とした長時間労働、交通渋滞による移動ストレス、デスクワーク中心の就業形態、外食・加工食品の増加など、生活環境の変化が人々の身体に確実に影響を与えています。
特に注目すべきは、生活習慣病リスクの高まりです。糖尿病や高血圧、肥満といった疾患は、かつては先進国特有の問題と見なされていましたが、インドネシアでは若年層や働き盛り世代にも広がり始めています。これは単なる個人の健康問題ではなく、労働生産性の低下、医療費の増加、社会保障負担の拡大といった、国家全体の持続性に関わる構造的な課題へとつながります。
こうした背景の中で、インドネシア社会では「病気になってから治す」医療モデルから、「病気になる前に防ぐ」予防モデルへの意識転換が起こり始めています。健康維持や体力向上を目的とした運動習慣は、もはや一部の富裕層やスポーツ愛好家だけのものではなく、働き続けるための自己投資、将来の医療費を抑えるための生活戦略として捉えられつつあります。
この文脈において、フィットネスは単なる運動の場ではなく、健康投資の受け皿としての役割を担い始めています。定期的な運動は、身体的な健康だけでなく、ストレス軽減やメンタルヘルスの改善にも寄与します。都市生活の中で失われがちな「身体を動かす時間」や「自分自身と向き合う時間」を提供するフィットネスは、生活の質そのものを高める存在として再評価されているのです。
また、インドネシアではフィットネス利用者の割合が依然として低い水準にある一方で、健康への関心は確実に高まっています。この「利用率の低さ」と「意識の高まり」のギャップこそが、今後の市場拡大余地を示す重要な指標です。中間層の可処分所得が増加し、「モノ」から「体験」「健康」へと消費の軸が移る中で、ジムやスタジオへの支出は合理的な選択肢として受け入れられ始めています。
こうした社会変化を総合的に見ると、フィットネス事業はもはや趣味や贅沢の領域ではなく、健康インフラとして機能しうる段階に入りつつあると言えます。インドネシアが“次の健康課題大国”になるという見方は、ネガティブな予測ではなく、予防型産業が本格的に必要とされるタイミングが到来していることを意味しているのです。
経済成長の次に来る波を読む──インドネシア×フィットネスの未来予測
インドネシア経済は、人口ボーナスを背景にした成長フェーズを経て、今後は「成長の質」が問われる段階に入っていくと考えられています。所得水準の向上とともに、人々は単なる消費量の増加ではなく、生活の質や将来の安心につながる支出を重視するようになります。その代表例が、健康・ウェルネス分野への投資です。
東南アジア全体のフィットネスクラブ市場は堅調な成長を続けており、2026年には約29億3,000万ドル、2031年には約45億6,000万ドル規模に達すると予測されています。この中で、インドネシアは同地域で最も高い成長率、年平均11.4%というCAGRを記録すると見込まれています。これは、単なる人口規模の大きさだけでなく、都市化のスピード、中間層の拡大、健康意識の浸透が同時に進んでいることを反映した数字です。
フィットネス市場の成長は、従来型の大型ジムだけでなく、専門スタジオ、少人数制プログラム、オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッド型サービスなど、多様な形態で進んでいくと考えられます。特に、都市部のビジネスパーソンや中間層にとっては、「短時間で効果が実感できる」「自分に合った指導が受けられる」サービスが選ばれやすくなっています。
ここで重要な役割を果たすのが、デジタル技術やAIの活用です。AIは、会員管理、予約最適化、顧客データの解析、パーソナライズされたトレーニング提案など、運営効率と顧客体験の両面を支えるインフラとして機能します。これにより、少人数でも高品質なサービス提供が可能となり、事業としての再現性と拡張性が高まります。
一方で、AIが担うのはあくまで「支援」の役割であり、フィットネスの本質的価値は人が提供し続けます。身体の状態を見極め、感情に寄り添い、継続を後押しする関係性は、データだけでは代替できません。この「AIによる効率化」と「人による体験価値」が両立する点こそが、インドネシア×フィットネス市場の将来性を際立たせています。
経済成長の次に来る波とは、単なる市場拡大ではなく、社会課題と事業価値が重なり合う領域へのシフトです。フィットネスはその中心に位置する産業であり、インドネシアにおいては今後10年、20年という長期スパンで見ても成長余地の大きい分野だと言えるでしょう。
まとめ:AI時代でも揺るがない“人×身体×信頼”の価値
生成AIの進化により、多くの業務は効率化・自動化され、事業構造そのものが変わりつつあります。しかし、その中にあっても、フィットネス事業が提供する価値は揺らぎません。それは、フィットネスが「人が人と身体を介して関わる体験」を中心に据えた産業だからです。
運動による身体変化を実感すること、トレーナーや仲間との関係性の中で継続すること、自分自身の健康に向き合う時間を持つこと。これらは、どれだけAIが高度化しても完全に置き換えることはできません。むしろAIは、こうした体験を支える裏方として活用されることで、フィットネスの価値をさらに高めていきます。
インドネシアは、若年層人口が多く、今後さらに健康課題が顕在化する成長市場です。この環境において、フィットネス事業は単なる収益機会にとどまらず、社会的意義と事業性を両立できる分野として位置づけられます。AIを補助ツールとして活用しつつ、「人の価値」を中心に据えたビジネスモデルを構築できるかどうかが、これからの成長を左右する重要なポイントになります。
フィットネスは、AI時代においてもなお、人×身体×信頼という普遍的な価値を体現し続ける産業です。そしてインドネシアは、その価値が最も大きく育つ土壌を持つ国の一つなのです。

